第6章 健康管理

これはテストえです

健康管理(1)

私は、古希になった今でも、ほぼ休むこともなく毎日農作業をしています。それもこれも健康をどうにか保てているからです。両親に感謝、妻に感謝です。

そもそも私は農作業が好きなのです。適度に肉体と頭を使い、健康的な自給野菜をふんだんに食べられます。煩わしい人間関係がほとんどなく、もちろん他人に使われることもありません。自分の好きなように働けます。豊かな自然環境と四季の移ろいに癒され、おまけに収入も得られる。「こんな日々を極楽と言わずして、何を極楽と言うのか」と私は思っています。ロシアの劇作家ゴーリキーが「どん底」という戯曲の中で「仕事が楽しみなら人生は極楽だ」と書きましたが、まさに同感です。

健康を保てているのは、両親や妻のお陰もありますが、まずは自覚と日々の実行が欠かせません。「良き習慣は才能に勝る」という格言どおりと思います。

私が日々実行している健康管理の方法を述べる前に、農民がなりやすい怪我や病気をまず列挙します。

  • 熱中症
  • 関節痛
  • 急激な気温変化による体調不良
  • 機械や農具による怪我
  • 転落と転倒
  • 皮膚の老化と病気
  • 目の老化と病気
  • 破傷風やマラリアなどの感染症

私はこれらの怪我と病気に気をつけながら働いています。次回からは一つづつ詳述します。

【2023年5月21日公開】

健康管理(2)

①熱中症

今日は今年一番の暑さでした。午前中は強い日差しにくわえ、微風しか吹かず、熱が体内にこもるため、熱中症の危険がありました。暑さに慣れていない研修生は、こまめにスポーツドリンクを飲み休憩をとりながら、昼過ぎまで防草シート張りを頑張りました。

今から30数年前、専業農家で実習していた時、私は熱中症(当時は「熱射病」と言いました)で意識がもうろうとして、救急車で搬送された経験があります。それ以来、二度とならないように、細心の注意を払ってきました。

例えば夏は、外作業は早朝から始め、暑くなったら屋内で荷造り。午後は昼寝と休息。午後3時ころから作業(主に荷造り)を再開し、外作業は夕方から日没まで。

服装は通気性の良い白いニットの長袖シャツとズボン。通気性の良い麦わら帽子。それでも、熱中症の兆候をわずかでも感じたら、地下水を頭から首筋に流し、冷水で濡らしたシャツを着て体温を下げます。

疲れが取れる睡眠を確保することも非常に重要です。そために、私は窓を開けて寝ています。昔から、眠るときにエアコンや扇風機を私は使ってきませんでした。部屋を閉め切ってエアコンや扇風機を使うと、酸欠状態になり、疲れが残るためです。その代わりに、8時間くらい冷たさを持続する保冷剤(いわゆる「アイスノン」)を枕にし、額と両手と両足も保冷剤で冷やして深部体温を急速に冷やすと、就寝から30分以内には眠りに落ちます。手や足を冷やすのは関節炎を防ぐ効果もあります。保冷剤と窓の開放によって、スッキリと目覚め体温は十分下がっています。

夏は特に汗をどっぷりかき汚れるので入浴はしますが、原則的に体を洗うだけ。湯舟にはつかりません。深部体温を上げてしまうからです。脱衣場はエアコンで冷やしておきます。無駄な汗は極力かかないようにします。発汗はエネルギーを消費するからです。体力の消耗とは、必要以上にエネルギーを消費することも一因と私は理解しています。

【2023年6月18日公開】

健康管理(3)

②関節痛

日本では3人に1人くらいが関節痛に悩まされていて、その主な部位は腰、膝、肩だそうです。他には、頸部や股関節、肘や手首なども関節痛になります。

これらの中で、農民が特に関節痛になりやすい部位は腰と膝ではないでしょうか。

私もご多分に漏れず、関節痛に悩まされ続けました。50になった頃に患った変形性膝関節症から始まり、五十肩、右肘の痛み(いわゆる「テニス肘」)、右手の関節炎(腱鞘炎の一歩手前)、そして60代半ばで頸椎を原因とする脊柱管狭窄症と患い続け、今にいたっています。幸い、近所で整形外科の名医が開業しておられ、その指導にもとづき日々のストレッチと筋トレを続けた結果、どうにか克服してきました。

そんな私でも、幸いなことに、一番厄介な関節痛・腰痛に悩まされたことはありません。とりわけ、慢性腰痛は生活の質(QOL)を著しく落とすので、以下のようなことを心掛けてきました。

・できるだけ重い物は持たない。それでも、重い物を持ち上げる必要があれば、重量挙げの選手のように腰を伸ばし脚力で持ち上げる。また、持ち上げる途中では腰を捻らない。

・同じ姿勢を続けない。特に中腰は短時間にする。

・露地野菜の栽培では地面近くに腰を落として行なう作業が多いが、その際は必ず片膝か両膝を地面について、できるだけ腰は伸ばして作業する。

・荷造り作業は立って行なう。

・足腰を冷やさない。

・パソコンやスマホなどを見る時は、背筋を伸ばし、猫背やストレート・ネックにならないようにする。

・就寝中に腰が沈まないように、肩甲骨と腰にかけて低反発布団とバスタオルを入れ、背骨がS字カーブを描くようにする。

・歯磨きや食事の最中に、脚の筋トレをする。

・朝目覚めたら、すぐに起床しないで、布団の上で首から股関節にかけてストレッチをする。夏は10分くらい、それ以外のシーズンは20分くらい。

以上のような腰痛防止の日常行動は、変形性膝関節症を患って1年以上も満足に歩けなくなった時に出会った整形外科の名医のアドバイスをもとに、いろいろ自分なりに考えたものです。

また、五十肩、右肘の痛み(いわゆる「テニス肘」)、右手の関節炎(腱鞘炎の一歩手前)、脊柱管狭窄症も、すべて名医の指導の下、姿勢と作業方法の改善、筋トレとストレッチなどを日々実行して克服してきました。

【2023年7月23日公開】

健康管理(4)

③急激な気温変化による体調不良

大陸の東側は、西側に比べ、寒冷です。ユーラシア大陸の西側にあるフランスなどの国々に比べ、東側の朝鮮半島やロシア極東地域のほうが寒く、北アメリカ大陸の西側にあるシアトルに比べ、東側にあるマサチューセッツ州の周辺のほうが寒くなります。

幸い日本は、ユーラシア大陸の東側にありながら周囲を海に囲まれているために、緯度のわりに温暖です。

とはいえ、農民のほとんどは、屋外で作業することが多く、気候や天気の急変にさらされます。当地では、立春から彼岸にかけて、秋は彼岸前後から晩秋にかけて、気温が急変することがあります。これらのうち、体調を崩しやすいのは秋です。猛暑の疲れが溜まっているところに気温が急に下がると、新陳代謝や免疫力が落ちるので、要注意の季節です。夏野菜の収穫と秋冬作物の作付けが重なると、なおさら危険です。

体調の崩れは、おもに発熱と倦怠感、そして腰痛などの関節痛として現れます。

これらに対する私の対策は次のようなものです。個人差がありますが、参考にしてみてください。まず発熱したら、寝込むほどでなければ、汗をかくくらい厚着をして、通常の作業をゆっくりします。何かの感染症にでもかかっていない限り、これで数日中に体調が戻ります。倦怠感が溜まった時も、発熱とほぼ同じように対処すると、改善します。もちろん、栄養バランスの良い食事と十分な睡眠をとります。

寒くなると、筋肉が硬くなりがちです。すると、関節に無理な力が加わり、関節を痛めます。この対策として上述のように、私は毎日目覚めると布団の上でストレッチをしています。特に寒い季節は、腰回りを中心に、しっかりほぐしてから起床しています。

体調不良への対策は、何より体調変化に対して敏感になることです。

【2023年8月20日公開】

健康管理(5)

④空気汚染

デスクワーカーと農民の労働環境は相当違います。ほとんどの農民の労働現場にはエアコンがありません。寒い時期に暖をとるストーブくらいです。屋外では、夏は非常に暑く、冬は厳しく冷え込みます。雨や風に打たれ、強烈な紫外線に皮膚は焼かれます。まさに宮沢賢治の「雨ニモマケズ 、風ニモマケズ、・・・・・」の世界そのものです。

数ある厳しい労働環境でも、あまり意識されないものが「空気汚染」です。「農民は豊かな自然環境の中で働けていいなあ」と思っている人が少なくないようですが、それは違います。空気汚染は半端ではありません。

空気汚染はおもに3つあります。農薬、土ぼこり、そして作物の実や葉から出る毛などです。

もともと私の家系は肺が弱く、専業農家の長兄は肺線維症で還暦前に亡くなり、兼業農家の次兄も同じ肺線維症になり酸素ボンベの世話になっています。どちらも、喫煙していたことが一因でしょうが、農薬と土ぼこり、作物ぼこりも原因になっていることは疑いの余地がありません。二人とも米麦の二毛作を長年続けてきましたが、マスクもせずに収穫したために空気中に飛散するほこりを大量に吸い込みました。針状の「もみ殻のいが」ぼこりが肺に突き刺さり蓄積してしまったことが考えられます。アスベストのようなものです。

私も肺の一部が機能していなくマスクが苦手でしたが、上述の現実に危惧を抱いた数年前からは、新型コロナ感染の予防もかねて、できるだけマスクつけ農作業をしています。

【2023年9月17日公開】

健康管理(6)

⑤機械や農具による怪我

私は大学卒業後、エンジニアとして電子部品を製造する会社に就職しました。今からもう半世紀ほど前ですが、機械類や装置には安全装置がほぼ完備されていました。プレスで指や手を落としたり、ベルトコンベヤーや旋盤に指を巻きこまれたり、というような事故の反省にたって大企業を中心に安全装置が普及しました。

しかし、いまだに農業現場では安全対策が徹底されていません。いたる所に危険が潜んでいます。

トラクターの転倒で死傷したりロータリーに手を巻きこまれて失ったり、管理機で脚や手を怪我することがあります。包丁やナイフ、鎌や鋏などの刃物で指を切ることも珍しくありません。とくに私は、作業がとても速いので、刃物でよく手や指を切ります。カッターナイフで指を切り、救急車で運ばれたこともありました。

また、刈払機(草や作物、竹や小枝などを切る機械)やチェーンソーは、安全装置があり機械そのものは安全ですが、作業で怪我をすることがあります。

さらに、積雪や路面が凍結した所でも車を走らせなければならないことがあります。非常に危険です。このような状況でも事故を起こさないように、かなりの運転技術が必要であり、4WDとABSのついた車が不可欠です。

怪我によっては、人生の質(いわゆるQOL)を著しく低めることがあるので、十分に注意しなければなりません。

【2023年10月15日公開】

健康管理(7)

⑥転落と転倒

20数年前、業者にビニールハウスを建ててもらいました。その時、業者を手伝いながら建て方を学び、その後11回自分でハウスを建てました。栽培用ハウス2棟、育苗用4棟、作業場3棟、倉庫2棟です。電気工事や水道工事も自分で行ないました。私は、野菜の栽培が天職と思っていますが、建築や土木工事なども大好きでこんなにも建てました。自分でデザインし、ひとつひとつ作り上げていくのが実に楽しいのです。また、自分で建築や工事をすると、費用を削減できるだけでなく、壊れた時に自分で迅速に直せるメリットもあります。

しかし、ハウスなどの高所での作業には常に転落の危険があります。ひとつ足を踏みはずせば、命を落とすこともある作業です。命拾いしても打ち場が悪ければ、障害が残る可能性が十分にあります。

現在使用している作業場は2011年に建てました。作業場としてはかなり大きいハウスです。その翌年に台風の直撃があり天井のビニールが飛ばされかけたため、暴風雨のなか必死に修復しました。一瞬のすきに吹き飛ばされる危険な作業で、死ぬかと思いつつ作業を完了しました。

その後還暦を過ぎ高所からの転落の可能性が高まり、最後の建設(栽培用のハウス)が終わった直後には過大なストレスで帯状疱疹を発症してしまいました。今でもときどき痛みます。

来月、12年前に建てた育苗ハウスと作業場のビニールを張り替えるのですが、命はお金に代えがたく、業者にお願いしました。

さらに、転落ほど危険ではありませんが、農場では転倒の危険もあります。雨や霜で土がぬかり転ぶことがあります。資材(おもに防虫ネット)の上で滑ったり、草に足をとられて転ぶことも珍しくはありません。年とともに足腰が衰えバランスを崩した時の反応が鈍り、いとも簡単に転倒してしまいます。とくに高齢者にとって転倒は、寝たきり状態のきっかけになるので、要注意なのです。

【2023年11月19日公開】

健康管理(8)

⑦紫外線による病気

農民は、屋外での作業が多いことから、心身ともに気候や天気などの影響を受けます。特に露地栽培を行なっている農民はより厳しい悪影響を受けます。例えば、寒暖や強風、土ぼこり、降雨、紫外線などです。これらの中でも、紫外線の悪影響をあまり意識しない農民がほとんどのようです。

紫外線の悪影響はおもに皮膚と目に現れます。

皮膚に紫外線を浴び続けると、シミやシワの発生と皮膚の老化はもちろん、皮膚ガンになることもあります。それにもかかわらず、ほとんどの男性は皮膚の健康を気にしていないようです。今では、皮膚の老化と寿命の短縮に正の相関があるという学説もあります。

加齢とともに、目の衰えが進みます。その代表格は遠視(いわゆる老眼)です。その進み具合は固人差があるものの、避けられない現実です。遠視は眼鏡で矯正できますが、白内障は手術が必要ですし、緑内障にいたっては失明することがあります。白内障の原因の一つが紫外線です。また、紫外線は緑内障の原因になっているという医学報告があるそうです。

いずれにしても、可能なかぎり紫外線は避けたいものです。

私は紫外線対策を徹底しています。具体的には、紫外線カットの近視用眼鏡をかけ、暑い季節でも長袖シャツを着て、一年中麦わら帽子をかぶっています。麦わら帽子をかぶるのは、紫外線を減らすだけでなく、直射日光を遮ることで視界がはっきりする効果があるからです。

農作業をするうえで、手と目がもっとも重要なのです。

【2023年12月17日公開】

健康管理(9)

⑧破傷風やマラリアなどの感染症

破傷風は破傷風菌による感染症です。破傷風菌は、嫌気状態の土の中にいて、おもに傷口から体内に侵入します。その菌が神経毒素を産生し神経疾患を発症させます。死亡率が10~20%と言われており、土に触れる機会が多い農民にとっては十分に注意すべき病気です。

日本では、経済発展にともない土に触れる職業や機会が激減してきたため、破傷風の発症が減ってきました。個人も社会も破傷風に対する危機感はもうありません。

しかし、露地野菜を栽培する農民には予防接種をお勧めします。保険適用ではないので、1回接種で1万円前後の費用がかかりますが、数回は接種したほうがいいでしょう。私は、ここ10年ほどで3回接種しました。

また、農業をしていると、やぶ蚊に刺されます。当地では夏場をはさんで半年ほどは悩まされます。日本では蚊による感染症はまずありませんが、昔は蚊が介在した日本脳炎がありました。

世界に目を転ずれば、熱帯を中心にマラリヤやデング熱などの病気が蔓延し、たくさんの命が失われています。人類にとっては蚊が最大の天敵です。年間100万人ほどが蚊からの感染症により死亡しているそうです。

温暖化にともない、本州でもマラリアにかかる危険が言われ始めています。先の長い若い農民は蚊による感染症を頭の片隅におきましょう。

【2024年1月21日公開】

健康管理(10)ーNew

⑨良き習慣は才能に勝る

今さら言うまでもなく、人工光を使った植物工場を除けば、農業は自然相手の職業です。体への負荷が相当かかります。

くわえて、農業だけで生計を立てるとなれば、頭(頭脳労働)も十分働かせなければなりません。両者(体と頭)をフルに使うには適切な健康管理は不可欠です。

その適切な健康管理は日々の良き習慣によってしか成し遂げられません。いくら農家としての才能や意欲があっても、体を壊しては何もなりません。挫折です。新規就農者が挫折する主たる原因の一つが体を壊すことです。

農家として独り立ちするには少なくても数年はかかります。それも、良き指導者に恵まれた場合です。であればこそ、なおさら適切な健康管理が重要です。そのための知識と自覚と忍耐に乏しい人は農業などしないことです。大事な人生を無駄にするだけです。

【2024年2月18日公開】