第5章 付帯作業

これはテストえです

付帯作業の重要性

農民にとって、もちろん栽培がもっとも重要な作業です。そのためか、新規就農者は栽培に重きを置き過ぎる傾向があります。

かつて私のところに相談に来られた方々から2つの例を挙げます。

野田市で新規就農した20代の後半の青年は、Mバーガー向けのトマトとK社のポテトチップス用のジャガイモを契約栽培していました。どちらの会社も大きさと納品数量が厳格で、あまり利益が出ないということで相談に来られました。

もう一つの例も、はやり20代後半の新規就農者でした。栽培が簡単ということで小松菜だけを栽培したところ、販売量が伸びず廃棄が出そうになり、私の販路で売ってくれないか、という相談でした。

どちらにも共通している点は、販売方法を十分検討しないまま、栽培を始めてしまったことです。

雇用されて農業に携わるのなら別ですが、上記の例のように自作農として自営する場合は、栽培と収穫・荷造り作業ができるだけで、営農し続けられるわけではありません。とりわけ、非農家出身者が就農するとなれば、多岐にわたる作業が必要となります。

そのもっとも重要な付帯作業は販路の開拓でしょう。より良い販路を開拓するのは容易ではありません。ここで言う「より良い」とは、収益性(=時給換算)だけではなく、本人の体の特徴や性格、充実度や知的好奇心の充足なども考慮しなければなりません。腰の強くない人が、露地野菜の収益性がいいからと言って手広く栽培すれば、腰を痛める可能性が大です。

より良い販路の開拓には、現在の消費者ニーズも把握し、あわせて将来の消費者ニーズも予測する必要があります。消費者ニーズに疎いと、栽培してもあまり売れないという結果になりかねません。上述の小松菜だけを生産した青年はこの類でしょう。小松菜は、消費者ニーズが低く、なおかつ生産体制がほぼ完成しているので、初心者が生産したところで薄利に終わる公算大です。

収益性を計算するためだけでなく、経営内容を把握するには、経理事務ができなければなりません。確定申告をするにも、経理事務は不可欠です。税理士に経理や申告事務を委託していたら、個人(または家族)営農者にとっては大きな支出となってしまいます。

この章では、栽培や収穫・荷造りなどの主たる作業を支える付帯作業について述べていきます。

【2021年3月21日公開】

作付け計画の立案

新規就農者は、農地を入手すると、やみくもに作付けすることがあります。経験不足ゆえに仕方ないのかも知れませんが、場合によっては挫折の原因にもなります。焦らず、以下の要件を十分検討してから、年間の作付け計画を立てましょう。

・栽培の目的は何か?:販売のためか、自給か、体験か、試験か、などの目的を明確にする。

・圃場のある地域の気候と自然環境

・圃場の面積と状態

・圃場周辺の状態

・本人の総合的力量

・他者の協力の有無:地主、地元農家、研修先、友人や知人、関連業者、行政組織などの協力を正確に把握する。

・労働力:販売を目的とする場合は従業員の雇用も検討する。

・資金:利用可能な資金量を明確にする。できるだけ借金はしないほうがいい。

・保有する施設や機械:施設や機械によって、栽培する品目や栽培面積が変わってくる。

・販路:販売を目的とする栽培では、これが非常に重要。

・将来の展開:目先の栽培計画を立てる際も、将来の展開を可能な限り具体的に思い描く。

・品種特性:栽培する品目と時期を検討する際、その品種特性を調べる。

・販売計画:販売を目的とする場合は、以上のような要件を検討し、販売計画を立てる。

・栽培計画:販売計画に基づいて、より具体的な計画を立てる。その際、不測の事態が発生しても対応できるように、農地と労働力に余裕を持たせる。

【2021年4月18日公開】

販路の開拓(1)

販路と生産は表裏一体です。車の両輪とも言えるでしょう。どちらの重要性に優劣は基本的にありません。

しかし、とかく新規就農者は、生産に重きを置き、販路の開拓をないがしろにしがちです。それもやむを得ない面もありますが、せめて意識の上では両者を同等に考えておくべきでしょう。

販路はいくつもあり、その良し悪しが少なからず収益に影響します。良い販路を得るのは簡単ではなく、新規就農者とりわけ非農家出身の新規就農者にとってはかなりハードルが高いのが現実です。

それでも、近年はインターネットでの情報収集や発信、販売ができるようになり、昔よりハードルが低くなっています。

販路は2つのカテゴリーに大別できます。自ら直に消費者に販売する方法と他者を通して消費者に販売する方法です。以下に、それぞれを挙げましょう。

①自ら直に消費者に販売する方法(=直売)

・宅配:配達方法は、運輸業者などに運賃を払って委託するのと、自ら(あるいは家族や従業員)持参する方法とがあります。前者は遠方へ、後者は近隣に配達するのが一般的です。近年、運送会社の運賃が上がっており、その運賃負担が重荷になります。慣行栽培で生産した農産物の販売ではこの方法は不向きです。

・店舗販売:消費者に買いに来てもらう方法で、自前の店舗(直売場あるいは農場)で売るか、公園などに出向き仮設テントで売るか、あるいは飲食店などの店舗に運びテナント料を払ってそこで直売するか、イベントに便乗して臨時で直売する方法などがあります。できるだけ定期的に販売することがポイントです。

・無尽販売:農場付近か、どこか人通りの多い道路脇に雨除けの小屋でも作り、そこに料金箱を置いて販売する方法です。販売額が少しであれば、この方法も悪くはありませんが、不正行為はある程度覚悟しておかなければならないでしょう。

【2021年5月15日公開】

②他者を通して消費者に販売する方法

・市場:農産物をこのルートで販売する方法は今でも主流で、国産の青果(野菜や果物)では約8割が市場経由です。このルートで取り扱われる農産物は大部分が慣行栽培で生産されたものです。市場出荷は一定の手続きをすれば誰でも行なえきますが、小規模の農家が個人で出荷するよりも、出荷組合などの組織の一員として出荷するのが一般的でしょう。スーパーなどの大きな小売り業者は、市場から仕入れる場合でも、市場を形式的に経由するだけで欲しい物を先取りすることがあります。このような場合、小規模農家が個人で市場出荷しても、実質的に相手にされません。また、地域によっては、市場の仲買業者が地域を定期的に回り小規模農家の農産物を集荷し市場に出荷してくれる場合もあります。小規模農家の廃業が増えてきた一方で、このルートは減ってきました。

・販売組織への販売:農家は生協や企業に販売し、そこから消費者に売られる方法です。この場合、生協や企業は買い取るのが一般的です。コロナ禍の影響で、宅配の需要が急増し、このルートの販売が増えています。農家から買い取った生協や企業は、宅配や店舗で販売します。近年は、インターネットを活用した個人宅配が主流になりつつあります。慣行栽培の小規模農家が個人でこのルートを利用するは現実的には無理です。

・委託販売:JAやスーパーマーケットなどが運営する地元農産物コーナー、あるいは道の駅に委託し、販売してもらう方法です。行政上は農家として登録されていない人でも、出荷できることが多いでしょう。家庭菜園で採れた農産物のうち自給で余ったものを少量でも出荷できる場合もあります。販売手数料などを差し引いた額が生産者には毎月入金されます。1990年代からこのルートが拡がってきました。

【2021年6月20日公開】

販路の開拓(2)

私は5つの販売方法を経験しました。それらを参考事例として挙げます。

①出荷組合を通じての販売

就農にあたり、地元の農業改良普及所に紹介され、船橋市の農業生産法人(出荷組合)に加盟する農家で研修しました。独立後は、その法人の準組合員となり、生協(千葉コープ)や共産党系の婦人団体「新婦人の会」、市場などに販売しました。

その法人には6年ほどお世話になりましたが、やめました。理由は二つ。出荷組合と最終販売組織の二段階で販売手数料を引かれ、期待したほど手取りが良くないこと。売れ筋のトマトなどは消費者への販売価格の半分以下しか生産者に入りませんでした。もう一つの理由は、出荷組合が組合員をどんどん増やした結果、全体的に品質が低下し続けたこと。大方の農家は「寄らば大樹」という意識だったのでしょう。有機農業を目指していた私には耐えがたい状況でした。

「組織は肥大化を目指し、遅かれ早かれ腐敗する」という名言がありますが、この法人もその道を歩みました。

②直売場

1990年代は全国的に直売場ブームが沸き起こりました。上記の出荷組合に明るい展望が見出せずにいた私は、有機農業の勉強会に参加し、その主催者に誘われて4戸の農家で農業生産法人を設立し地元に直売場を開設しました。初めの頃は、バブル経済の余波が残っていたためか、順調な売り上げでした。

開設の1年後、仲間内での販売競争が表面化し1戸がやめてしまいました。その農家は、主に直売で年間1000万円以上の売り上げがあった野菜農家で、供給量が減り販売に影響が出てしまいました。

その2年後、私は、借りていた農地の地主の家族で相続問題が勃発し、農地を返却することとなり、ほとんど出荷できなくなってしまいました。

出荷量の減少にくわえ、バブル経済の崩壊により人々の金回りが悪くなったこと、直売場が農村地帯あり消費者は車でしか来られないことなども障害となり、結局、法人は解散し、直売場は閉鎖することになりました。出資金250万円は結局戻りませんでした。

【2021年7月18日公開】

販路の開拓(3)

③駅構内での販売

上述の直売場の閉鎖によって、唯一の販路を失うことになりました。

直売場の閉鎖が目前に迫り、それ以前から構想していた「駅構内での直売」を実行に移すことにしました。この構想は、お客が来るのを待っている直売場とは真逆で、お客のもとへ出向く販売方法です。電車を利用する乗降客にとって、通りすがりに買えて、とても利便性がいい。ここで買えないものは駅のすぐ横にある大手スーパーで買えば済むのです。

駅は最寄りの北総鉄道とし、8駅で市場調査をしました。将来的な販売量は3つの路線が乗り入れている「新鎌ヶ谷」駅がもっとも大きいと予測されましたが、「西白井」駅から始めることにしました。この駅の周辺には、閉鎖することになった直売場の常連客がもっとも多く住んでいたからです。

最大の課題はテナント料でした。「テナント料をいくらにしてもらうか。および、テナント料は定額にするのか販売額に応じた定率にするか」でした。担当の営業課長は農家出身であったため農家の大変さを熟知しておられ、くわえて北総鉄道でこのような事業の前例がなかったことも手伝って、破格のテナント料(定率)になりました。非常に幸運でした。後に、「新鎌ヶ谷」駅でも販売を始める際、もっとテナント料の料率を上げるよう担当課長は取締役から厳しく指摘されたそうですが、それでも世間相場よりも低い料率にすることで取締役を説得してくれました。ありがたいことです。

いざ開始すると、いろいろなことがありました。駅のそばにあるスーパー「マル●●」の店長が駅員に「私どもの野菜の売り上げが落ちてしまった。駅での野菜販売は許可しているのか」とクレームをつけてきました。駅員は「テナント料を頂いているので問題はありません」と軽くあしらったそうです。

また、農家風の人たちが何度も見に来たり、市役所の産業課の人たちが訪れ広報に載せてくれました。

しかし、悪いことも起きてしまいました。近所の農家から暴力を受けたのです。「オレも仲間に入れろ」と居丈高に要求してきたのを断ったためでした。後にわかったことですが、その男は暴力を振るうことで村では知れ渡っていましたが、よそ者の私は知りませんでした。

その後、駅構内での直売をフランチャイズ化しようと合計5か所の駅で販売しましたが、採算性と人材不足のために現在は3駅になっています。

このような販売方法を検討している方に、お問い合わせいただければ、私の経験を具体的にお伝えします。

【2021年8月15日公開】

販路の開拓(4)

④宅配

上述①の直売場の閉鎖の経験から学んだことは、「販路は複数持っていないと危うい」ということです。

そこで、駅構内での直売にくわえ、宅配も始めました。

対象は個人で、配達方法はヤマト運輸と自ら配る2つの方法です。配達頻度は毎週と隔週の2種類を設定しました。

内容物は、こちらが毎回指定する野菜に加え、供給可能リストから顧客が注文する野菜の双方をセットにしてお送りしました。お互いの都合を対等に扱うためです。

代金は、お客ごとに異なるので月末締めの請求書を作成し、翌月に銀行口座へ入金か直接受け取りました。

この宅配方式は、顧客ごとに届ける内容物が異なるために、3つの煩雑さがありました。まず、収穫作業です。注文に応じて収穫量を確定しなければなりません。次は仕分け作業で、これまた顧客ごとに仕分るので、間違いを防ぐためにダブルチェックする必要がありました。3つ目は事務作業です。受けた注文をもとに収穫リストを作成、顧客ごとに納品リストを作成、そして、月末締めで請求リストを作成しなければなりません。

幸い、担当者は、脱サラし私の農場で数年研修をしたのですが、もとはシステムエンジニアだったので、このような煩雑な事務作業を難なくこなせました。

この担当者の能力に加え、知り合いが無料でホームページを作成してくれたこと、私や担当者はもとよりパート従業員も積極的に顧客を探してくれたことの3点が事業を軌道に乗せられた理由でしょう。

【2021年9月19日公開】

販路の開拓(5)

⑤スーパーなどの地場野菜コーナーでの販売

今まで、スーパーは3社で、JA道の駅は1店で販売したことがあります。どれも委託販売で、販売手数料は約20%です。

まず初めは、上述の「②直売場」を経営していた時です。直売場だけでは荷がさばききれないために、Lスーパーの2店舗に専用の地場野菜コーナーを設けてもらい、直売場で売れ残ったものも含め、毎晩納品しました。販売価格は直売場での標準価格よりも1~2割ほど低めに設定しないと売れませんでした。この販売ルートは、直売場の閉鎖にとこない、終了しました。

次は、農場の近くにあったKスーパーの地場野菜コーナーに出荷しました。日ごろ世話になっていた近所の農家2戸が出荷していたコーナーの仲間に入れてもらいました。売り場は1坪ほどと狭いのですが、入り口のそばにあったので目立ち、店の担当者がこまめに冷蔵室から品物を補充してくれたので、まずまずの売り上げでした。ここでの販売は、割が良かったものの、農場を移転した関係で、残念ながら終了しました。

農場移転にともない、新たな販路を開拓しなければならず、地元のJAが運営する道の駅に出荷しました。この店舗には数十戸の農家が出荷するために、農家間の価格競争が厳しく、くわえて、すぐ近くに大きな安売りスーパーがある関係で、販売価格をかなり低く設定しなければなりませんでした。また、店舗のイベントにボランティアで駆り出されたり会合があったりと、タダ働きが毎月あり、1年でやめました。

4社目のMスーパーでの販売は8年近くたった今でも続けています。この地場野菜コーナーは、上述のJA道の駅と同じように多くの農家が出荷しているので生産者間の価格競争があり、価格を低めに設定しなければならないものの、3つの利点があります。9店舗を持つ小さなチェーンストアですが、そのすべてに地場野菜コーナーがあり、1店舗に納品すれば、すべての店舗に売上高の2%で転送してくれます。二つ目の利点は売り場が広いことです。店舗によって広さは異なり、5~15坪ほどあります。3つ目は、納品の自由度があることです。納品してもしなくてもこちらの自由で、一定の時刻までに納品すれば構いません。天候や天気に左右されがちな農業にとって、この自由度の利点は助かります。

【2021年10月17日公開】

販路の開拓(6)

⑥スーパーマーケットへの直販売

地場野菜コーナーではなく、通常の仕入れ品としてイトーヨーカドーにサニーレタスを納品したことがあります。市場の中にある仲買い会社が間に入り、イトーヨーカドーの8店舗ほどに配送してもらいました。単価が安く仲買い会社に手数料を支払わなければなりませんが、全量買い取りなので、販売額は計算できました。

自前の直売に比べ、より計画的に出荷する必要があり、強くプレッシャーがかかりました。私は無農薬栽培をしていた関係で、生産量が安定しにくかったからです。くわえて、単価が安いにもかかわらず、それでいて良い外見が要求されたため、1年でやめました。

その5、6年後、無農薬栽培の技術が向上し人手も増えたため、販路を拡大する必要に迫られジャスコに直接納品しようと交渉しましたが、やはりジャスコも単価が安いだけでなく、納品場所が農場から片道1時間以上もかかるため、諦めました。

⑦飲食店への販売

個人向け宅配の延長で、居酒屋、フランス料理店、純和風小料理店、喫茶レストラン、カレーライス専門店などにも納品したことがあります。カレーライス専門店には週2回直接届け、他は宅配便(送料は先方負担)で送りました。どのケースも、こちらから供給可能な物を提示し、その中から注文していただきました。個人宅配よりも、1回の金額が数倍多いため、効率は良かったのですが、宅配料金の値上げと発送作業の煩雑さにより今はどれも終了しました。

⑧食品加工メーカーへの直接販売

私は経験したことがないのですが、大手の食品加工メーカーに直接販売していた人たちから苦労話を直接聞く機会が二度ありました。一人はモスバーガー用のトマトを、もう一人はカルビーポテトチップス用のジャガイモを出荷していました。どちらにも共通している点がいくつかありました。メリットとしては、単価が一定で、平均市場出荷よりも高いことです。ディメリットとしては、外見(大きさ形、色艶など)や味の規格が厳しいだけでなく、納品量と時期も厳守しなければならないために、販売できない物がかなり発生してしまう点です。お二人とも食品加工メーカーに売れない物の販路を模索し、私のところへ相談に来られたのです。

【2021年11月21日公開】

販路の開拓(7)

⑨インターネット販売

私は2006年から自らのホームページを持ちました。その関係で、「インターネットを使って、そちらの野菜をわが社で販売しますよ」という勧誘の電話が数多くありました。

しかし、1社を除き、他のすべてはその場で断りました。まずは、電話一本で話をつけようなどという魂胆が気に入らないためです。さらに、根本的な理由は、量や品目、納品時期など販売に関して先方が強い立場に立つため、単価が安く抑えられ、なおかつ出荷が不安定になり、無駄が多く発生するのが明白だからです。

そもそも、そのような電話勧誘をしてくる会社は、実績がないか乏しいことが推測され、倒産することも十分ありえます。そのような場合、売掛金が回収できなくなるのは必至です。私の知り合いで、販売会社が倒産し半年分の売掛金をもらえなかった人が実際いました。

ただ、これからの時代は、インターネットを活用した販売方法も重要な一つの選択肢になるでしょう。実際、SNSの急速な普及でインターネットを活用した販売が増えてきました。とりわけ、新型コロナ禍の影響で巣籠需要が急伸し、一時は生協などの宅配がパンクしてしまいました

日本でもリモートワークが定着するのは時代の流れで、アマゾンや楽天を引き合いに出すまでもなく、ほぼすべての生活用品は宅配が急増するでしょう。車の販売さえ、日産自動車はインターネット販売を始めるそうです。

そのような時代の流れを考えれば、生鮮野菜のインターネット販売も重要性を増します。その場合、課題となるのは輸送費と鮮度低下で、さらに中間業者が入る場合は手数料も課題になるでしょう。

⑩商社への販売

仲卸しの商社2社が、インターネットで私の農園を知り、野菜を取り扱いたいとのコンタクトがありました。どちらも有機農産物を取り扱う会社で、私の農園では農林省の有機JASの認証を受けていないので、話がまとまりませんでした。

⑪その他

イベントでのスポット販売も何度かしたことがありますが、販売効率が悪く数度でやめました。ただ、利益以外の目的があれば、ある程度の価値はあるでしょう。

また、農場での直接販売も何度かしましたが、接客に時間を取られるために、これも何度かでやめました。農場で直接買いたいというお客のために、農場での無尽販売も検討したことがありますが、やはり効率が悪いので行ないませんでした。

【2021年12月19日公開】

販路の評価と選択(1)

各種の販路がありますが、それらを一つひとつ自分なりに評価し選択すべきでしょう。目先の手っ取り早い販路を闇雲に選ぶと、回り道になったり後悔したり、はたまた資金切れで挫折することもあります。

私の経験や、それに基づく評価方法が何かの参考になれば幸いです。

私は、思考錯誤しつつ、すでに述べたように以下の順に販路を開拓してきました。それらは、出荷組合を通じて生協などへの販売、自前の直売場での販売、公立保育園への販売、スーパーなどの地場野菜コーナーでの販売、スーパーへの販売、駅構内での販売、個人への宅配、飲食店への販売、イベントでの販売、です。

それらを開拓する際、以下の前提条件を念頭に置いて、より細部の検討に入りました。

・労働生産性が良いか、悪いか

・独占的販売か、それとも競争的販売か:例えば、農家個人で消費者個人などを対象に宅配する場合は独占的販売が可能です。しかし、スーパーや道の駅などの地場野菜コーナーでの販売では、競争的販売が常です。

・販売先の経営が安定的か、それとも経営が傾くか破綻する可能性があるか:この点に関して、私は自ら辛い経験を三度し、他者から四度ほど聞きしました。それらは、破産や解散、店舗の縮小、販売単価の大幅な引き下げや販売手数料の増額、などです。

・売上金が確実に支払われるか、それとも支払いが遅れたり踏み倒される可能性があるか:中間業者の経営が傾き始めると、まず販売単価の引き下げや販売手数料の増額が起き、売上金の支払いが遅れ始めます。このような状況は中間業者が破綻しやすくなったサインです。

当然のことながら、どの販売方法でも、労働生産性が良く、独占的販売で、中間業者が入る場合はその業者の経営が安定的で売上金が確実に支払われることが優位です。

これらの前提条件に立って、おもに以下の要素を検討し、自分なりに評価し選択してきました。

・生産者の都合

・消費者の都合

・中間業者の都合

・自然環境との関係

・社会との関係

【2022年1月16日公開】

販路の評価と選択(2)生産者の都合

①フルタイムかパートタイムか

生産者の都合はいろいろありますが、まず考えなければならない点は、農業で生計を立てていくのか、それとも他の収入源も確保しつつ農業もするのか、という選択です。この選択が販路を選ぶ時の第一歩です。

一般的に、農業で生計を立てる農家を専業農家と、他の収入源もある農家を兼業農家と区分けすることもありますが、どちらかと言えば、フルタイムの営農か、それともパートタイムの営農と区分けして考えるほうが現実的でしょう。

例えば、私はフルタイムで営農していますが、妻は定年まで給与所得者(いわゆる「サラリーマン」)でした。ですから、旧来の区分で言えば、我が家は兼業農家でした。すでに妻は定年退職し、妻も私も年金を受給しており、娘は給与所得者なので、経済的には今でも我が家は兼業農家です。

しかし私自身は、確固たるプロ意識を持ちフルタイムで農業に取り組んできましたので、専業農家と考えています。その意識と経験に基づいて、研修生を多数受け入れてきましたし、この実践講座を書いています。

誰も家庭の事情は様々ですが、いずれにしても、自分自身はフルタイムで農業に関わるのか、パートタイムで関わるのかという自覚はしっかりと持つ必要があるでしょう。

②利用可能な資産

農業資産には、おもに農地の質と面積、施設の種類と数と機能、機械の種類と数、営農地の地域性と自然条件などがあります。これら利用可能な資産も販路の選択の際に十分考慮しなければならないでしょう。

これらの資産の中でも、もっとも評価が難しいものは農地の質です。これだけでも本が一冊書けるほどです。ここでは、phと排水性という簡単な例をあげます。

ほうれん草は、消費量が多く、値崩れしにくい時期に販売すれば、収益性の良い野菜です。露地栽培でも十分なので、初期投資はもとより生産経費も抑えられます。したがって、販売の主力にでき、大量に生産し薄利多売に対応する販路で売ることが可能です。しかし、ほうれん草は、phが低いとうまく栽培できず、7前後のphが要求されます。逆に、ブルーベリーはきわめて低いphの土壌でないと栽培不可能です。

また、ほうれん草は、排水性の良い農地でないと、失敗の確率がグンと高くなります。さつま芋も同様に、排水性の良い農地でないと販売に耐えるものはできません。逆に、米の栽培は排水性の悪い農地、つまり水持ちの良い水田が必要となります。

このように、農地の質に適した作物を栽培することが基本で、それによって販路の選択に影響してきます。

農地の面積も販路の選択に影響し、耕作面積と機械化度と労働力を一体に捉えて販路を検討することが大事でしょう。耕作面積の割に機械化度が低く労働力が少ない場合は薄利多売の販路(例えば公設市場やJA)を、逆に耕作面積の割に機械化度が高く労働力が十分な場合は販売単価の高い販路(例えば宅配などの独自販路)を選択するのが妥当でしょう。ただし、収益性(つまり労働生産性)に関しては、両者の優劣は単純にはつけられません。後述の資金力や能力(おもに技術力)なども収益性に影響してきます。

【2022年2月20日公開】

販路の評価と選択(3)生産者の都合

③資金力

新規就農する場合は、経営が軌道に乗るまでに必要な一定量の資金が必要です。特に非農家出身者が新規就農するとなれば、農家の後継者として就農するよりも多くの資金を用意しておかなければなりません。もちろん、家族状況や価値観、就農者本人の能力や就農方法、就農地域や協力者の有無、公的資金を利用するか否か、などの条件によって必要な資金量は異なります。

その用意された資金量も販路の選択に影響します。資金が豊富であれば、生産性向上のための投資も十分できます。例えば、使い勝手の良い作業場などを建設するとか、性能の良いハウスを建てるとか、コストパフォーマンスの良い機械を揃えるとか。当然のことながら、生産性が向上すれば収益率が上がるので、販路の幅が拡がります。

ただし、後になって後悔するような投資をしないように気をつけなければなりません。往々にして、初心者は何に適切な投資をしたら良いのか熟慮しないまま、投資をしてしまう傾向があります。これを避けるには、しっかり営農している先人のアドバイスを受けるのも一つの方法でしょう。

また、資金が豊富であれば、より良い販路を見つける期間の余裕も長くとれます。この余裕の期間に、より良い農地を入手したり、農家などで実践的な研修をしたり、セミナーに参加したり、本やネットなどで勉強したりと、技術を伸ばせる時間がとれます。

安易に目先の販路に飛びつき惰性でその販路に頼り続け、資金が尽きて挫折する新規就農者がたくさんいます。そんな現実をしっかり受け止め、より収益性の良い販路を開拓すべきでしょう。私が知り合った農家は、例外なく、販路で苦労しています。

【2022年3月20日公開】

販路の評価と選択(4)生産者の都合

④能力

上述の資金力と同様に、営農者の能力も販路の選択に大きく影響します。能力が高ければ、販路の幅が拡がり、より良い販路の選択が可能になります。非農家の新規就農者は、能力や経験が不十分であるため、販路の選択がかなり制約されがちです。

ここで言う能力の中心的なものは栽培に関するものですが、日本では家族農業か一人農業がほとんどであるため、生活を成り立たせるためには多岐にわたる能力が一人の営農者に要求されます。

栽培技術はもちろんのこと、収穫や荷造りの技術、一定レベル以上の経理も必要です。農業は自然相手の職業です。そのため、少なくても気象に関する実践的な知識も欠かせません。日々の健康管理も能力の一つですし、性格も能力です。性格を超える品質のものは決して作れません。

栽培に関しては、中学校レベルの理科の知識と学習意欲さえあれば、遅かれ早かれ基本的に独学でもどうにかなります。現代では、市販本だけでなく、インターネットを活用すれば、学ぶ機会と材料は山ほどあります。

その一方で、収穫や荷造りは、なかなか学ぶ機会がなく器用さや性格なども大きく影響するため、意識的に努力してもその能力はなかなか向上しません。同じように栽培されたものでも、荷造りが悪かったり不適切であると販売量が減り、結局は収益性の悪い販路に甘んじることになりがちです。

健康管理と販路の関係について、長い経験から私はこのように理解しています。例えば、健康管理が不十分で体調を崩しやすい人は、多品目栽培と露地栽培には向きません。これらは、少品目栽培とハウス栽培に比べ、体調を崩しやすいからです。通年販売も厳しいです。就農したての頃、私はよく風邪をひきました。特に晩秋から早春にかけてはインフルエンザで寝込むことも度々ありました。そのため、収益性の良い数品目しか栽培せず、大きな出荷組合に属し、独自の販路は開拓しませんでした。農作業のコツをある程度マスターし健康管理もできるようになってから、独自の販路を開拓しました。

健康管理に関連して言えば、筋力も販路の選択に影響します。筋力が小さいと、重量野菜(例えば、大根、キャベツ、白菜など)は体への負担が多くなり、大面積の営農も難しくなります。したがって、筋力が小さいと、販路の選択の幅が狭くなります。

結局のところ、自分の体と頭に合った販路の選択に落ち着くことになります。

【2022年4月17日公開】

販路の評価と選択(5)生産者の都合

⑤労働力

労働力も販路の選択に大きく影響します。

ここで言う労働力は、人数や総労働時間だけではなく、労働者の年齢や経験量、個々の能力やそのフォーメーション、家庭状況や融通性など、多面的です。

リーダー(最終経営責任者)は、チームの労働力の特性を熟知し、もっとも生産性の高い販路を開拓するのが原則です。この原則から逸脱する経営者は経営者としては不適切でしょう。一人で営農するのであれ、家族経営であれ、家族以外の人を雇用するのであれ、この原則は同じです。

例えば、労働力が少ない場合、小規模で継続性のある確実な販路を一つか二つ持つのが現実的です。その販路の例として、自前の個人宅配がありますが、それには基本的に多品目少量栽培の技術が不可欠で、初心者には難易度が高すぎます。また、小規模農家が大規模販路を狙っても、販路側が小規模農家は相手にしないこともよくあることです。

逆に労働力が豊富にある場合、一つか二つの大規模販路に絞ることも可能です。JAや市場出荷、大手スーパーなどとの契約栽培、生協などの産直出荷が考えられます。生協などの大規模な産直組織に出荷する場合、産直組織と一口に言っても、安全性などの高い品質を求めるものもあれば、薄利多売を優先するあまり安全性などの品質を落としている産直組織もあります。構成員の能力や経験の多少に見合った販路を選択すべきです。背伸びしすぎると、組織が崩壊します。

いずれにしても、営農組織が保有する資産や資金、メンバーの能力や経験、構成員の労働の量と特性に見合った販路を選ぶべきでしょう。

【2022年5月15日公開】

販路の評価と選択(6)消費者の都合

私は、いろいろな販路で販売してきた経験から、消費者の都合を具体的に意識できるようになりました。それはプロの農家としては当たり前のことでしょうが。

30年以上の営農で多くの農民に出会い、販路に関して気がついたことがあります。それは、「ほとんどの農民は販路を開拓する際に自分の都合を優先し消費者の都合をあまり意識していない」ということです。生産者としての自分の都合と消費者の都合をうまくマッチングできる販路が持てず苦労している農民を少なからず見てきました。知り合った農民からの質問は、「●●●●はどこの種苗会社の何を使っているのか?」と「どこで販売しているのか?」の二つがほとんどです。

一口に「消費者の都合」と言っても、単純ではありません。例えば、価格に関して、「家計支出を節約するために、とにかく安いものを買う」という消費者から、「高くても安全な有機栽培のものを買う」という消費者まで幅があります。また量に関しては、「割安ならば一度にたくさん買おう」という消費者から、「割高でも少量買おう」という消費者まで、これまた幅があります。「栄養はあまり気にしない」という消費者もいれば、「より健康に良いものを買いたい」という消費者もいます。鮮度や見た目の良し悪しに関しても、購入方法に関しても、実に消費者の意識は多岐にわたり様々です。その購入行動の根底にはその人なりの都合が必ず存在します。

農薬を使わずより安全なものを生産・販売したいと思っている農民であれば、「高くても安全な有機栽培のものを買う」という消費者に届けられる販路を開拓するでしょう。しかし、その生産者がその販路の消費者の都合や意識を十分意識していないと、双方の都合がミスマッチをきたし、うまく軌道にのりません。このミスマッチは初心者によく見られます。私も、その例に漏れず、ミスマッチを何度か経験してきました。

【2022年6月19日公開】

販路の評価と選択(7)消費者の都合

①価格

どんな商品に関しても言えることですが、消費者の都合でもっともウェートを占めるのは価格です。経済活動が社会の中心となっている社会や集団では、「とにかく安い物を買う」という消費性向がほぼ絶対的な存在となっています。

その一方で、供給側の農民は、「できるだけ利益を出さないと生活ができない」という都合から販売価格を高くしたいという欲求がつねにあり、消費者の都合と自分の都合との接点を見つけるのに悩まされます。

実際の場面では、需要側(消費者や流通業者など)に対して供給側(農民)の立場が弱いーーーーつまり、需要側に価格決定権を握られているーーーーため、消費性向を過剰に意識してしまい低価格に甘んじる農民が今でも少なからずいます。いや、大方でしょう。

農産物の生産、とりわけ野菜などの生産は天候などの自然現象の影響を大きく受けるため、供給量が変動しやすくなります。また、消費者ができるだけ安いものを求めるために、需要が安い輸入農産物に流れやすくなります。さらに、1990年代のバブル崩壊後から続いてきたデフレと家計所得の減少も価格を押し下げる要因となってきました。

このようなことの繰り返しによって、消費者は価格を過度に意識するようになり、日本では「とにかく安い物を買う」という消費性向が強まってきました。

②おいしさ

ほとんどの消費者が価格の次に求めるものは、おいしさではないでしょうか。人によっては、価格が高くてもおいしさを優先することさえあります。近年の高級食パンブームはその典型です。

「おいしさ」と言っても、少々漠然としています。長い対面販売の経験から私は、ほとんどの消費者が求める「おいしさ」とは、おもに「甘い」と「脂っぽい」と「しょっぱい」というものではないかと思っています。

その根拠となる事例は非常にたくさんありますが、ここでは顕著な例をいくつかあげましょう。

「甘い」ものの指標として、糖度というものが使われています。それを測定する糖度計は手ごろな値段で昔から市販されていています。糖度が高いことを売りにしている果物や野菜はたくさんあります。果物では、ほぼ全ても物で糖度が競われています。野菜は果物ほどではありませんが、スイカ、メロン、トマトなどは糖度が価格決定の主要因にさえなっています。葉物野菜のキャベツや白菜、ほうれん草などでも甘さが重要視されます。市販の菓子や飲料物でも砂糖や果糖液糖などの甘味料がどっさり入っています。

「脂っぽい」ものが日本でも重要視されています。魚では脂ののった魚がうまいとされ、その頂点は大トロでしょう。肉も同様で、牛の霜降り肉はきわめて高価です。その霜降り肉を生産するために、雄牛の精子が売買され、海外への流出が規制されているほどです。市販の菓子も脂っぽいものがたくさんあります。

「しょっぱい」ものは菓子類に顕著です。上述の「甘い」、「脂っぽい」、「しょっぱい」が菓子類の味付けの基本です。外食にも同様な傾向がはっきり見て取れます。

これらのように、「おいしいものを食べたい」という消費欲求は根強く、その都合に対応するために供給側は四苦八苦してきました。

【2022年7月17日公開】

販路の評価と選択(8)消費者の都合

③小型・少量

食に対する消費者都合として次に考えられるのが小型・少量ではないでしょうか。その背景には人口動態があります。

日本は、韓国、台湾、中国と同様に、少子高齢化が急速に進んでいます。中でも日本はそのトップランナーとも言えます。そのため、家族構成員が減り、単身世帯が増え続けてきました。総務省統計局のデータによると、令和2年の単身世帯数は約2100万となり、全世帯の約38%になっています。

その結果、購入する食料品も小型・少量化にならざるをえません。くわえて、野菜や果物の一人当たりの消費が減ってきたことも、この小型・少量化に拍車をかけてきました。

思い浮かべてください。小玉スイカ、カット野菜、果菜類や果物のばら売りは既に一般的になっています。

2年ほど前、我が家の近くの安売りスーパーで、大根が2本100円以下で売られていました。コロナ禍で外食産業の需要が激減したためでしょう。半切り大根が珍しくない時代に、誰が2本も買うのでしょうか。その売り場を10分ほど見ていたのですが、案の定、まったく売れませんでした。

消費者の都合に逆行する販売だからです。

この消費者の都合はこれからもより強くなることが予想されますので、生産する側・提供する側はこの点をしっかり理解した生産と販売をしなければならないでしょう。

【2022年8月21日公開】

販路の評価と選択(9)消費者の都合

④手軽に食べられるもの

この消費者志向は、野菜にかぎらず、食べ物全般に見られるものです。

たぶん、始まりはパン食でしょう。今でも、コーヒーなどの飲み物とパンだけの朝食をサッとすませる人が多いでしょう。これにバナナなどの果物やカットサラダがつけば、いいほうです。朝食を食べない人も珍しくありません。

この「お手軽」志向は、インスタント・ラーメン、カップ麺、安いバナナ(一番売れている果物はバナナ)、コンビニの弁当やおにぎりなどの出現に後押しされてきました。

その背景には、戦後復興のために、人々が忙しく働かなくてはならない事情がありました。1990年代にバブル経済がはじけても仕事に余裕がでるどころか、企業などの設備投資がにぶり労働生産性があがらないために、長時間労働がつづいてきました。要するに日本の労働者は、能力勝負ではなく、時間勝負と非正規労働の増加にあまんじてきたのです。先進各国が労働時間を減らしてきたにもかかわらず、日本の労働者は今でも忙しく働き、食事を手軽にすませることが当たり前になってしまいました。

ここで、手軽に食べられる野菜の例をいくつかあげておきましょう。筆頭はトマトです。トマトは日本での生産額のトップです。割高でもカット野菜の販売額ものびてきました(近年は減少傾向)。枝豆はゆでるだけで食べられるので、けっこう値段が高くてもよく売れます。冷凍枝豆なら、チンするだけです。

生で食べられる野菜を望む消費者性向は、手軽に食べられるだけでなく、健康志向も影響しているのかもしれません。

手軽に食べたいという消費者の都合は、単身者の増加、婚姻率の低下、出生率の減少、貧困化などによって、日本では今後もつづくでしょう。何より、まともに料理ができない人が増える一方ですから。

【2022年9月18日公開】

販路の評価と選択(10)消費者の都合

⑤栄養

なぜ私たちが食べ物を摂取するのかと言えば、当たり前ですが、健やかに生命を育み維持するためです。

私はできるだけ安全性が高く栄養豊富な野菜を供給しようと営農してきました。そんな私から見ると、健康的な生活を営むために、食べ物の栄養に関して具体的な知識を持っている人があまりにも少ないようです。「野菜は健康にいい」程度の意識で野菜を選んでいる人たちが圧倒的多数ではないでしょうか。たぶん、学校教育にその原因があると私は思っています。

その一方で、ドラッグストアに行くと、各種のサプリメントがずらーと並べられています。各種のマスメディアはもとより、ネット上でもこれらのサプリメントや健康飲料などの広告が頻繁に出てきます。たぶん、かなりのニーズがあるのでしょう。

しかし、サプリメントが食べ物の栄養にとって代われるのでしょうか。

最近、ネット記事を見ていたら、「ビタミンのサプリメントを飲み続けると健康上問題がある」という研究結果がのっていました。その論文の解説として、「サプリメントの単純な栄養と食べ物に含まれる複雑な栄養とでは人体に及ぼす作用が異なる」とありました。真偽のほどはわかりかねますが、野菜の栽培経験から、私は納得しました。サプリメントのような単純な化学肥料と食べ物のような複雑な有機肥料とでは、作物の出来が異なるからです。耐病性、味、日持ち、栄養などに違いが出ることがほとんどです。

このような観点から、野菜の栄養を吟味し、具体的な購入行動をとっている日本の消費者は少数派です。それもかなりの少数派と思われます。

ですから、販路の評価と選択をする際、「栄養」という要素の優先順位を低くする農民が圧倒的多数になります。とりわけ、日本の農業を支えている中心的な世代―――高齢者―――はその傾向が顕著です。

しかし、であればこそ、その大勢とは真逆の営農を選択するとういう道もあるのではないでしょうか。

【2022年10月16日公開】

販路の評価と選択(11)中間業者の都合

直売でない限り、生産者と消費者との間には必ず一つか二つの中間業者が、場合によっては三つ以上入ることもあります。この中間業者にはクレジット会社やネットで情報を提供する会社も含まれます。今の日本では中間業者の存在を否定することは非常に困難です。中間業者もそれなりの重要な流通システムに組み込まれているからです。

たぶん今でも最大の中間業者はJAではないかと思います。JAが扱う国産米の割合(集荷率)は昔ほどではなくなりましたが、それでも50%(2022年度)を超えています。もちろん、JAが扱う野菜も膨大です。

このような巨大な組織から極めて小規模な組織まで様々ですが、中間業者も経営を成り立たせるために中間マージンをとり、それらは生産者と消費者が負担しています。

そこで生産者は、中間業者を通じて販売するなら、その都合を十分知り、それをどう評価しどこを選択するか、十分に吟味する必要があります。ひとたび販路が確定し販売し始めると、仮にその販路に不満や不利な点が出てきても、新たな販路を開拓するのは難しいからです。

では、中間業者を評価する要件はどのようなものがあるか、以下にあげます。これらは、私が自身の経験から知ったものですので完璧に客観的とは言えませんが、初心者や新たな販路を開拓しようとしている方には多少の参考にはなると思います。

  • マージン率。またはマージン額や初期費用など。
  • 中間業者から自分への支払い条件。
  • その組織の実績と実態と継続性。
  • その組織が販売している先の実績と実態と継続性。販売先は消費者や小売業者、あるいは次の段階の中間業者があります。
  • その組織の人材の質と数と定着率。その組織の担当者がよく変わるようでは危ない。
  • その組織と自分の都合との合致点と相違点。例えば、納品する農産物の質や数や荷姿、返品やペナルティーの有無とその内容、納品スケジュールなど。納品スケジュールは年間スケジュールや月間スケジュール、週間スケジュールなどが考えられ、それらはどのようなプロセスで決められるのか、どちらに最終決定権があるのか、そのスケジュールにはどの程度の融通性があるのか、などをしっかり確認すべきです。
  • 納品方法と納品場所と納品時刻。
  • 重大な問題が発生した場合の責任の所在。
  • 定型化された規約と契約書の有無。

少なくても以上の要件を知り納得した上で販路を決定することが無難ですし、後悔しないでしょう。

【2022年11月20日公開】

販路の評価と選択(12)自然環境との関係(1)

販路の評価と選択をする際、生産者の都合、消費者の都合、中間業者の都合に加え、生産地の環境も十分に考慮する必要があります。ここで言う環境には、自然環境と社会環境があり、ここではまず、自然環境の影響について述べます。

自然環境の端的な例としては気候があげられるでしょう。通年で栽培できる温暖地と雪の多い寒冷地とでは、おのずと栽培する物や時期が異なってきます。寒冷地でもハウス栽培によって温暖地のような栽培が可能になりましたが、投資と経費を考えれば採算性が劣る可能性が大です。今年のようにエネルギー価格が高騰すれば、経費が増えてしまいます。また、気候としては、寒暖だけでなく、台風、梅雨、秋の長雨、昼夜の温度差、降雪などがあげられます。

営農に影響する自然環境は、気候の他に、地形と土質と水利があります。傾斜地で柑橘類や茶が栽培されているのは、それなりの理由があります。北海道のような広大な農地が広がる地域と都市近郊に多くある狭い農地とでは、栽培する物も販路も同じにはなりにくいでしょう。

土質によっても栽培できる物がある程度制約されます。水利の良し悪しも栽培する物に影響します。水利が悪い地域では稲作は不向きです。

これらのように、自然環境は、生産と販売に大きく影響します。農家の後継者であると、自然環境をなかなか選べませんが、非農家出身者が新規就農する場合は自分の求める自然環境の地域をある程度選べるので、この利点を活かしましょう。

【2022年12月18日公開】

販路の評価と選択(13)自然環境との関係(2)

日本では、半世紀ほど前からハウス栽培が広く普及し、自然環境から受けるマイナスの影響を低減してきました。それでも、まだまだ天候などの影響を受け続けています。前回は、この点から販路の評価と選択について述べました。

今回と次回は、生産者も消費者も意識が薄い逆の影響、つまり「農業が及ぼす自然環境への影響」から販路の選択と評価について述べてみたいと思います。

農民に対して、「豊かな自然環境の中で仕事ができていいな」という認識を持っている非農家が非常にたくさんおられると推察できます。たぶん、圧倒的多数の人々がそう思っていることでしょう。

しかし、実際の現場は必ずしもそうではありません。大局的に見れば、そもそも農業そのものは「反自然の行為」なのですから。販路を考える際、この根本を意識しなくてはなりません。この意識の薄さこそが、農業問題にとどまらず、人類の生存も及ぼしかねない地球環境問題の大きな一因になっています。

いくつか例をあげましょう。

①水の汚染:肥料と農薬の使い過ぎで、河川や地下水が汚染され、飲食に適しない水が増えています。日本では、飲料水の汚染基準が定められていています。例えば、硝酸は、広く肥料として使われていますが、これが10ppm以上含まれていると飲料としては適しません。この濃度が高い飲食物をとり続けると病気になるからです。「ブルーベイビー症」はよく知られています。また、発がんも疑われています。(発がん性については既にエビデンスがあるかもしれません)

②大気の汚染:もっとも大きな影響は、牛や羊など反芻(はんすう)動物が出す「ゲップ」に含まれるメタンガスによる地球温暖化ではないでしょうか。メタンガスは二酸化炭素の28倍もの温暖化効果があるそうです。この問題は、おもにヨーロッパで何十年も前から指摘されてきましたが、残念ながら、いまだに日本では深刻な問題として広く認識されるにいたっておりません。

もう一つあげると、大気中に含まれる花粉や土の微粒子の問題です。(いわゆる「PM2.5問題」と言えるかもしれません) スギ花粉の問題は、戦後の林業における無計画と無責任体制が生んだ大気汚染です。この問題が、毎年どれだけ日本のGDPを押し下げているか試算すると、たぶん途方もない数字になるでしょう。耕作放棄地などに繁茂するセイタカアワダチソウによる花粉症も大問題です。これらは、農業や林業が自然環境に及ぼす影響に対する無自覚・無意識・無計画が原因です。販路もろくに考えず、戦後の廃墟を再建するのには大量の木材が必要になったために、ただやみくもにスギやヒノキを植林した結果なのです。

【2023年1月15日公開】

販路の評価と選択(14)自然環境との関係(3)

③土壌汚染:これも世界規模の問題になっています。土壌を汚染する物には、大別すると、2種類あります。自然界に存在する物質と人間が化学的に作り出した物質です。前者は化学肥料の長期使用、河川や地下水による灌漑、土壌の乾燥化などによって土壌に蓄積するミネラル分です。後者は農薬の長期使用です。これらが土壌に蓄積し土壌が汚染されると、いずれは作物が栽培できなくなります。

前者について少し詳しく述べましょう。化学肥料の一つに硫安(正式名:硫酸アンモニウム)というものがあります。化学式で表すと、(NH4)2SO4となります。アンモニウムイオン2つと硫酸イオン1つがイオン結合したものです。植物は、生育に不可欠な窒素(N)分を吸収しますが、ほとんど必要としない硫酸イオンは土壌中に残ります。雨が多い地域や日本の水田では、この硫酸イオンのほとんどは地下水や河川に流れていき土壌中に蓄積しにくいのですが、ハウス栽培や乾燥地での栽培では、蓄積していきます。硫安に限らず、他の化学肥料や有機肥料でも植物に吸収されずに化学成分が残ります。この現象を「塩類集積」といい、塩類が一定以上集積すると植物が肥料成分を吸収できなくなり、生育できなくなります。この塩類集積や降雨量が少なくなって使えなくなる農地が膨大な面積で、これが世界的な問題になっています。

後者の農薬汚染は、安全上の基準を満たさず食べられない作物を生み出すことになります。その一つとして指摘されているのが「遺伝子組み換え食品」です。

④生物種の絶滅:特定の作物だけを大規模に栽培する「モノカルチャー」や農薬の多用などによって実におびただし種類の動植物や微生物が既に絶滅したり、今も絶滅の危機に瀕しています。例えば、ブラジルの自然豊かな熱帯が開墾され、牛などの畜産や大豆などの穀物生産が急増してきました。もちろん、ほとんどの日本人もその恩恵にあずかってきました。

私の農場周辺でも、同じ現象が起きています。例えば、果菜類の授粉をしてくれるハチなどの昆虫がめっきり減りました。そのため10年ほど前から、ズッキーニは毎朝、人が雄花の花粉を雌花につけないといけなくなりました。

人間による自然環境の汚染や破壊は、これまでもこれからも、めぐりめぐって、自らの生存をも危うくしています。

【2023年2月19日公開】

販路の評価と選択(15)社会環境との関係(1)

販路を検討する際、営農地や販売地域などの社会環境との関係も十分に考慮する必要があります。ここでは、私の事例を挙げます。

私は主に直売という販路を念頭に30年ほど前に就農しました。しかし、就農から5年ほどは、経験も知識も乏しかったので、大きな出荷組合に所属し生協などに出荷していました。

一口に「直売」といっても、いくつかの形態があります。大別すると、自前の直売場や公共施設などで販売する方法と消費者へ宅配する方法です。後者は自分で配達する方法と運送会社に配達してもらう方法があります。どの直売の形態を選ぶかは、社会環境に大きく依存します。

例えば、過疎地に営農地があれば、自前の直売場や公共施設などで直売する方法は現実的ではありません。また、宅配という直売をするにしても、運送業者に宅配を依頼するしかありません。

つまり、営農地の周囲に大きな住宅地がない過疎地では、農地の入手が容易であっても、あるいは自治体が新規就農に協力的であっても、販路が限定的にならざるをえません。

そこで私は、就農から10年ほどが過ぎた時、都会に隣接する農村地帯(農業振興地域)に農地を購入し、販路を直売一本に絞りました。具体的には、北総鉄道の構内を賃貸して定期的に直売する方法、自分たちで消費者宅に直接届ける宅配、それにヤマト運輸に配達を依頼する宅配の直売方法です。

【2023年3月19日公開】

販路の評価と選択(16)社会環境との関係(2)ーNew

営農をとりまく社会環境には、上述の地域あるいは地理に起因するものの他にも、いくつか考えられます。例えば、経済状況、政策、IT技術の活用などは営農方法にかなり影響を及ぼします。当然のことながら、販路の評価と選択にも関係してきます。

20世紀後半から今世紀初めまで、日本は世界2位の経済大国でした。一人当たりのGDPが世界一になったことさえあります。しかし、バブル経済が崩壊してから、国の経済政策の失敗を主因として、実質賃金は目減りする一方です。このような経済状況では、庶民の節約志向が強くなり、食料品への支出を減らす人々が圧倒的多数になりました。ウクライナ戦争と円安で加工食品は値上げのラッシュですが、野菜と米の販売価格は一向に上がっていません。それどころか、昨年は下がっていました。こういった経済状況は今後も続くと予想され、それに即した販路を開拓すべきでしょう。

国は「みどりの食料システム戦略」という政策を2021年に策定しました。その中で、2050年までに農地の25%を有機農業に転換する目標を掲げています。この政策を国が本気で実行すれば、今後の営農方法に少なからず影響を及ぼすでしょう。もちろん、その影響は販路に直結します。

今や社会全体がIT技術なくしては成り立たたず、農業にも今後大きく影響してくるでしょう。コンビニがスーパーマーケットを凌駕してきた要因の一つはポスシステムというIT技術が活用されたからです。このような販売面でのIT技術の活用は、農産物の流通だけでなく、実際に農産物の生産にも影響し始めています。

このように、販路の評価と選択に際し、社会環境も十分考慮する必要があります。

【2023年4月16日公開】