第5章 付帯作業

付帯作業の重要性

農民にとって、もちろん栽培がもっとも重要な作業です。そのためか、新規就農者は栽培に重きを置き過ぎる傾向があります。

かつて私のところに相談に来られた方々から2つの例を挙げます。

野田市で新規就農した20代の後半の青年は、Mバーガー向けのトマトとK社のポテトチップス用のジャガイモを契約栽培していました。どちらの会社も大きさと納品数量が厳格で、あまり利益が出ないということで相談に来られました。

もう一つの例も、はやり20代後半の新規就農者でした。栽培が簡単ということで小松菜だけを栽培したところ、販売量が伸びず廃棄が出そうになり、私の販路で売ってくれないか、という相談でした。

どちらにも共通している点は、販売方法を十分検討しないまま、栽培を始めてしまったことです。

雇用されて農業に携わるのなら別ですが、上記の例のように自作農として自営する場合は、栽培と収穫・荷造り作業ができるだけで、営農し続けられるわけではありません。とりわけ、非農家出身者が就農するとなれば、多岐にわたる作業が必要となります。

そのもっとも重要な付帯作業は販路の開拓でしょう。より良い販路を開拓するのは容易ではありません。ここで言う「より良い」とは、収益性(=時給換算)だけではなく、本人の体の特徴や性格、充実度や知的好奇心の充足なども考慮しなければなりません。腰の強くない人が、露地野菜の収益性がいいからと言って手広く栽培すれば、腰を痛める可能性が大です。

より良い販路の開拓には、現在の消費者ニーズも把握し、あわせて将来の消費者ニーズも予測する必要があります。消費者ニーズに疎いと、栽培してもあまり売れないという結果になりかねません。上述の小松菜だけを生産した青年はこの類でしょう。小松菜は、消費者ニーズが低く、なおかつ生産体制がほぼ完成しているので、初心者が生産したところで薄利に終わる公算大です。

収益性を計算するためだけでなく、経営内容を把握するには、経理事務ができなければなりません。確定申告をするにも、経理事務は不可欠です。税理士に経理や申告事務を委託していたら、個人(または家族)営農者にとっては大きな支出となってしまいます。

この章では、栽培や収穫・荷造りなどの主たる作業を支える付帯作業について述べていきます。

【2021年3月21日公開】

作付け計画の立案

新規就農者は、農地を入手すると、やみくもに作付けすることがあります。経験不足ゆえに仕方ないのかも知れませんが、場合によっては挫折の原因にもなります。焦らず、以下の要件を十分検討してから、年間の作付け計画を立てましょう。

・栽培の目的は何か?:販売のためか、自給か、体験か、試験か、などの目的を明確にする。

・圃場のある地域の気候と自然環境

・圃場の面積と状態

・圃場周辺の状態

・本人の総合的力量

・他者の協力の有無:地主、地元農家、研修先、友人や知人、関連業者、行政組織などの協力を正確に把握する。

・労働力:販売を目的とする場合は従業員の雇用も検討する。

・資金:利用可能な資金量を明確にする。できるだけ借金はしないほうがいい。

・保有する施設や機械:施設や機械によって、栽培する品目や栽培面積が変わってくる。

・販路:販売を目的とする栽培では、これが非常に重要。

・将来の展開:目先の栽培計画を立てる際も、将来の展開を可能な限り具体的に思い描く。

・品種特性:栽培する品目と時期を検討する際、その品種特性を調べる。

・販売計画:販売を目的とする場合は、以上のような要件を検討し、販売計画を立てる。

・栽培計画:販売計画に基づいて、より具体的な計画を立てる。その際、不測の事態が発生しても対応できるように、農地と労働力に余裕を持たせる。

【2021年4月18日公開】

販路の開拓(1)

販路と生産は表裏一体です。車の両輪とも言えるでしょう。どちらの重要性に優劣は基本的にありません。

しかし、とかく新規就農者は、生産に重きを置き、販路の開拓をないがしろにしがちです。それもやむを得ない面もありますが、せめて意識の上では両者を同等に考えておくべきでしょう。

販路はいくつもあり、その良し悪しが少なからず収益に影響します。良い販路を得るのは簡単ではなく、新規就農者とりわけ非農家出身の新規就農者にとってはかなりハードルが高いのが現実です。

それでも、近年はインターネットでの情報収集や発信、販売ができるようになり、昔よりハードルが低くなっています。

販路は2つのカテゴリーに大別できます。自ら直に消費者に販売する方法と他者を通して消費者に販売する方法です。以下に、それぞれを挙げましょう。

①自ら直に消費者に販売する方法(=直売)

・宅配:配達方法は、運輸業者などに運賃を払って委託するのと、自ら(あるいは家族や従業員)持参する方法とがあります。前者は遠方へ、後者は近隣に配達するのが一般的です。近年、運送会社の運賃が上がっており、その運賃負担が重荷になります。慣行栽培で生産した農産物の販売ではこの方法は不向きです。

・店舗販売:消費者に買いに来てもらう方法で、自前の店舗(直売場あるいは農場)で売るか、公園などに出向き仮設テントで売るか、あるいは飲食店などの店舗に運びテナント料を払ってそこで直売するか、イベントに便乗して臨時で直売する方法などがあります。できるだけ定期的に販売することがポイントです。

・無尽販売:農場付近か、どこか人通りの多い道路脇に雨除けの小屋でも作り、そこに料金箱を置いて販売する方法です。販売額が少しであれば、この方法も悪くはありませんが、不正行為はある程度覚悟しておかなければならないでしょう。

【2021年5月15日公開】

②他者を通して消費者に販売する方法

・市場:農産物をこのルートで販売する方法は今でも主流で、国産の青果(野菜や果物)では約8割が市場経由です。このルートで取り扱われる農産物は大部分が慣行栽培で生産されたものです。市場出荷は一定の手続きをすれば誰でも行なえきますが、小規模の農家が個人で出荷するよりも、出荷組合などの組織の一員として出荷するのが一般的でしょう。スーパーなどの大きな小売り業者は、市場から仕入れる場合でも、市場を形式的に経由するだけで欲しい物を先取りすることがあります。このような場合、小規模農家が個人で市場出荷しても、実質的に相手にされません。また、地域によっては、市場の仲買業者が地域を定期的に回り小規模農家の農産物を集荷し市場に出荷してくれる場合もあります。小規模農家の廃業が増えてきた一方で、このルートは減ってきました。

・販売組織への販売:農家は生協や企業に販売し、そこから消費者に売られる方法です。この場合、生協や企業は買い取るのが一般的です。コロナ禍の影響で、宅配の需要が急増し、このルートの販売が増えています。農家から買い取った生協や企業は、宅配や店舗で販売します。近年は、インターネットを活用した個人宅配が主流になりつつあります。慣行栽培の小規模農家が個人でこのルートを利用するは現実的には無理です。

・委託販売:JAやスーパーマーケットなどが運営する地元農産物コーナー、あるいは道の駅に委託し、販売してもらう方法です。行政上は農家として登録されていない人でも、出荷できることが多いでしょう。家庭菜園で採れた農産物のうち自給で余ったものを少量でも出荷できる場合もあります。販売手数料などを差し引いた額が生産者には毎月入金されます。1990年代からこのルートが拡がってきました。

【2021年6月20日公開】

販路の開拓(2)ーNewー

私は5つの販売方法を経験しました。それらを参考事例として挙げます。

①出荷組合を通じての販売

就農にあたり、地元の農業改良普及所に紹介され、船橋市の農業生産法人(出荷組合)に加盟する農家で研修しました。独立後は、その法人の準組合員となり、生協(千葉コープ)や共産党系の婦人団体「新婦人の会」、市場などに販売しました。

その法人には6年ほどお世話になりましたが、やめました。理由は二つ。出荷組合と最終販売組織の二段階で販売手数料を引かれ、期待したほど手取りが良くないこと。売れ筋のトマトなどは消費者への販売価格の半分以下しか生産者に入りませんでした。もう一つの理由は、出荷組合が組合員をどんどん増やした結果、全体的に品質が低下し続けたこと。大方の農家は「寄らば大樹」という意識だったのでしょう。有機農業を目指していた私には耐えがたい状況でした。

「組織は肥大化を目指し、遅かれ早かれ腐敗する」という名言がありますが、この法人もその道を歩みました。

②直売場

1990年代は全国的に直売場ブームが沸き起こりました。上記の出荷組合に明るい展望が見出せずにいた私は、有機農業の勉強会に参加し、その主催者に誘われて4戸の農家で農業生産法人を設立し地元に直売場を開設しました。初めの頃は、バブル経済の余波が残っていたためか、順調な売り上げでした。

開設の1年後、仲間内での販売競争が表面化し1戸がやめてしまいました。その農家は、主に直売で年間1000万円以上の売り上げがあった野菜農家で、供給量が減り販売に影響が出てしまいました。

その2年後、私は、借りていた農地の地主の家族で相続問題が勃発し、農地を返却することとなり、ほとんど出荷できなくなってしまいました。

出荷量の減少にくわえ、バブル経済の崩壊により人々の金回りが悪くなったこと、直売場が農村地帯あり消費者は車でしか来られないことなども障害となり、結局、法人は解散し、直売場は閉鎖することになりました。出資金250万円は結局戻りませんでした。

【2021年7月18日公開】