一口に農産物といっても、生産するものによって、穀物、野菜、花、畜産品と大別できます。ここでは野菜について、世界的な近年の動向と現場の経験をもとに、今後どんな栽培形態が生き残れるか、私見を述べます。
5、6年前、ネット記事で衝撃的な動画を見ました。アメリカで露地栽培のイチゴを収穫する大型機械が作られた、というものです。ものの見事に収穫していました。イチゴは、デリケートで小さく、熟度が重要です。それを機械の指が次々と速やかに収穫できるとは、私の想像をこえていました。
そして最近、日本人によってイチゴの植物工場がアメリカに作られ、順調に発展しているという、ネット記事がのりました。(「いちごを365日収穫できる植物工場?」で検索可能) 上記の大型機械での収穫は露地栽培でしたが、これは植物工場内でのイチゴ栽培です。この栽培の画期的な点は、植物工場で栽培するということよりも、コンスタントに365日収穫できる点です。
近年、人口光を使う植物工場が増えてきて、農水省によると令和5年時点で237施設ほどあるそうです。(そのうち、太陽光と人口光を併用しているのは43施設) 今後、採算の取れる作物をIT化された植物工場で栽培する形態がいっそう進むと予想されます。
その一方で、上記の植物工場と対極にあるような露地栽培も生き残ると私は思っています。露地栽培は温暖化によって安定的な生産が難しくなりつつあり、昨年からの野菜価格の高騰がそれを物語っています。急激な気候変動にくわえて、止まらない農民の高齢化が拍車をかけています。
しかし、これらの困難は、力量のある経営体(農家または生産法人)にとっては大きなチャンスになっていくでしょう。
植物工場と露地栽培の中間にある自然光と土を利用した、昔ながらの施設栽培(いわうる「ハウス栽培」)は伸び悩むか衰退すると私は予測しています。中途半場なのです。
上述のような動向と認識にたち、私は8年ほど前から農薬と化学肥料を使わずに露地栽培で春から秋までイチゴを収穫する技術を研究してきました。そして、昨年どうにか技術的課題をクリヤーできました。下の写真は一昨年の11月に採れたイチゴです。大粒で非常に甘くなっていました。
この研究を始めた理由は、①イチゴは栄養が豊富で手軽に食べられる、②各県で開発競争をしているほど需要が多い、③日本でのイチゴ出荷はおもに冬から春にかけてで、夏から秋にかけてはとても少ない、④ほぼすべてのイチゴはハウス栽培で、生産コストの低い露地栽培イチゴは一般に流通していない、⑤一般のイチゴは農薬漬けで農薬や化学肥料を使用していないものはまずない、の5つです。
私はこのイチゴ栽培に残りの人生の多くを費やしたいと思っています。
(文責:鴇田 三芳)