ヨーロッパ諸国は、深刻な食糧危機と二度の世界大戦を経験し、欧州経済共同体(EEC)を1958年に設立した。その目的の一つが食料増産だった。その努力もあって、ヨーロッパ諸国は食料自給率を向上させてきた。フランスにいたっては自給率が100%をこえ、世界有数の輸出国になっている。
日本はヨーロッパ諸国とは真逆の道を歩んできた。
戦後、廃墟のなかで死の淵をさまよっていた日本人を戦勝国アメリカが食料支援した。学校給食が先導して、パンや乳製品、家畜肉などの洋食はまたたく間に日本人の食卓を席巻した。大脳生理学者の林氏は「白米を食べると馬鹿になる」と唱え、パン食を奨励した。この言説も日本政府の政策と国民の米離れに影響したと言われている。
その背景には、「日本を二度と強国にさせない」というアメリカの長期的な戦略があった。その一つが「米から小麦へ、魚から豚や牛などの家畜肉へ、家畜には草ではなくトウモロコシを」というアメリカへの食料依存を増すものであった。結局、米の需要が減り続けてきた一方で小麦の需要は増え続けてきた。アメリカの食料戦略は見事に達成された。
アメリカの食料戦略と歩調を合わせるかのように、日本は、工業立国をめざし、農業を犠牲にしてきた。農民を工場労働者へと駆り立て、農地は、工場用地に、住宅に、道路に転用され、減り続けてきた。
日本政府は何十年も前から食料自給率の向上を政策目標にかかげてきたが、上がるどころか、下がり続けてきた。気がつけば食料自給率は40%を切ってしまった。改善の見込みは立っていない。政策を立て予算を確保しても、それを実行する農民が減り続けてしまったからである。
1996年、ワールドウォッチ研究所長のレスター・R・ブラウン博士が著した本「だれが中国を養うのか?」(原題:WHO WILL FEED CHINA?)が世界に衝撃を与えたが、中国の穀物生産量は文化大革命以降も増え続け、出版当時でも食料は自給できていた。
しかし、氏が予測したように、今や中国のカロリーベースの食料自給率は2022年に75%前後(愛知大学名誉教授・高橋五郎氏による)に落ち込み、食料の輸入大国になった。
日本は、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、食料価格が上昇し続けている。経済力で中国に大きく後れをとった日本は、円安も影響して、穀物の輸入で中国に買い負けることも起きている。これも食料価格の上昇の一因である。たぶん今後も、世界情勢の悪化、経済力の相対的低下、国内の自然災害などによって、食料価格が上がり続けるであろう。「輸出で稼いだカネで食料を買えばいい」という国家方針の結果である。
今や日本も食糧危機の入口に差しかかっている。ブラウン博士の言葉を借りれば、まさに「だれが日本を養うのか?」という時代に突入しつつある。
(文責:鴇田 三芳)

