第346話 農業衰退の原因(2)

百姓雑話

1970年代後半から、日本の農業は衰退の一途をたどってきた。なぜこうなってしまったのか、農業現場から私なりに考えてきたことを述べてみたい。

バブル経済で人手不足が深刻になった1990年頃から、主として若年労働者が敬遠する「きつい」、「汚い」、「危険」な労働を「3k」と言うようになった。建設・土木やゴミ処理などの肉体労働、警察官や看護師、介護士など労働条件の厳しい職業をさし、当然この中に農業も含まれていた。その後、農業は「5k」とか「7k」とか、kの数が増え、今や10kも指摘されている。「きつい」、「汚い」、「危険」の3kにくわえ、「厳しい自然相手」、「効率が悪い」、「休日がない」、「給料が安い」、「かっこ悪い」、「婚期を逃す」、「希望が持てない」と。

農業関係者ならもちろん、農業をしていなくても農業に関心のある人なら、これらのkが腑に落ちるであろう。もし増やせと言われれば、もっとkを増やすこともできる。「関心がうすい」と「軽視・軽蔑される」も実存している。

いったい消費者の何%が農業の現実を知っているのだろうか。私は、長く直売してきた経験から、1%以下であろうと思っている。さらに2桁少ない可能性さえある。こんな無関心が広く国民の間に蔓延していては、政府が「食料自給率を向上させる」と目標を掲げたところで向上するはずがない。

農家でない人には想像しにくいだろうが、農家を軽視・軽蔑する風潮はいまだに残っている。例えば、ネット上や書類などにある職業欄に「農業」という選択肢をまず見かけない。私は実際、都市部の進学校に通っていたときも、エンジニアとして会社で働いていたときも、軽蔑の言葉を何度も浴びせられ、心が深く傷ついた。

さらに言えば、軽視・軽蔑をこえて、法制度上の差別を受けている。労働者を守るために制定された労働基準法は実質的に農家を対象にしていない。法人化していれば別だが、自営している農家自身は最低賃金の対象になっていなく労働保険(労災と雇用保険)にも加入できない。もちろん、労働組合などあろうはずもない。年金と健康保険も国民年金と国民健康保険である。「農家は定年がなくていいわね」という声をよく聞くが、とんでもない話しである。国民年金くらいでは老後が心配なので、働いているのだ。

農民は格差社会の最前線で半世紀以上も前から苦悩してきたのである。

こんな労働環境や社会的地位では、農家出身者が他産業に流れ、農民が増えるわけがない。
農家の兼業化と離農、後継者不足、村落の崩壊といった農業の現実は今も脈々と続いている。

(文責:鴇田 三芳)