第421話 これから人類は何を食べればいいのか

百姓雑話

「あなた!もっとタンパク質を摂らなきゃだめよ!」夕食に出される肉料理を私があまり食べないと、妻の檄 (げき)が飛ぶ。健康オタクの私はタンパク質の重要性など百も承知している。妻の思いやりはわかるが、私は牛や豚などの家畜肉をあまり食べたくないのだ。

幼い頃、農家だった生家にはいろいろな家畜がいた。牛、馬、山羊、兎、鶏。もちろん、猫や犬もいた。猫は湯たんぽ代わりに一緒に寝た。猫が私の布団の中で出産したこともある。それら牛や馬などのかわいい顔が脳裏に焼きついている。

鶏は、卵をあまり産まなくなると、父が庭先で逆さに吊るし首を切り落とし血抜きした。その鶏の肉と血の塊はすぐに食卓にのぼった。食べ残った骨は犬がむしゃぶり食べた。こんな体験をしてきた私は、妻のように家畜肉を積極的に食べる気にならない。理屈ではない。感情の問題だ。

ところで、私たち人類は、農耕を始めるまでは狩猟採集によって生きのびてきたと言われている。野生動物を狩り、魚介類を捕り、木の実を集め、草やその根を食べてきたのだろう。

農耕は今から1万数千年ほど前に始まったという。麦や米、豆などの穀類を主食とする人々が現れ、農耕文明が世界各地で隆盛してきた。畜産も世界各地で行なわれてきたが、始められた時代の特定は難しいようだ。

そして、20世紀初めごろから、家畜に穀物を積極的に与え、その肉や乳、卵からタンパク質を摂る食事が世界中に普及してきた。この畜産物を多用する料理、いわゆる洋食が日本に普及したのは、たかだか戦後のことだ。人類の長い食の歴史に比べたら、ほんの一瞬の習慣に過ぎない。

前世紀半ば頃から、家畜に穀物を積極的に与える畜産業が盛んになった。家畜用の穀物の増産が求められ、大規模な農地を新たに造成してきた。広大な熱帯雨林のアマゾン地帯も、森林伐採による農地化によって、乾燥化しつつある。また、大量の河川水や地下水を農地に灌漑してきたために、塩類集積による砂漠化が急速に進み耕作できなくなった農地が増え続けている。

人類は、飽くことなき食欲を満たすために、戦争をくり返すだけでなく、母なる地球さえも破壊しつくそうとしている。

さらに今世紀に入り、レスター・ブラウン氏がその著書「だれが中国を養うのか?(原題:WHO WILL FEED CHINA?)」の中で警告したように、人口10数億人を擁する中国の肉食化・美食化がさらに進み飼料用穀物の需要が急増した。その影響は、中国一国にとどまらず、世界中に波及し、とりわけ経済的に貧しい国にとっては穀物不足が死活問題になっている。

この地球規模の食糧危機をのり越えるためには、「何をどう作ったら食糧を増産できるのか?」という呪縛(じゅばく)を解き、「これから人類は何を食べればいいのか?」という発想の転換も必要ではないかと私は思っている。とりわけ、タンパク源を畜産物や魚介類に大きく依存している今の食習慣を変えなければ、地球環境はますます破壊され、気候変動はいっそう進み、食料をめぐる戦争はなおも続くだろう。人類の真の英知が試されている。

(文責:鴇田 三芳)