第362話 昆虫食(1)

百姓雑話

私たちの食料でもっとも重要なものが穀物です。麦、米、トウモロコシなどのイネ科作物から得られます。穀物は、カロリー源として適しており栽培も容易なため、主食にしている人間が大半です。さらに穀物は、今や畜産(牛や豚、鶏など)の飼料としても欠かせない存在になっています。

その穀物は数年前から、世界の生産量よりも需要の伸びがまさり、在庫率が減り始めています。アメリカ政府によれば、今年も需要が生産を上回りそうです。そのため、世界市場での穀物価格が値上がりしており、特にトウモロコシと大豆はここ数年間で約2倍になっています。どちらも、食用だけでなく、飼料用としても不可欠な穀物です。

もちろん、その影響は日本にも及んでいます。「物価の優等生」と言われて久しい鶏卵の価格は、トウモロコシなどを餌としているために、値上がりしています。また、日本政府が製粉会社に売り渡す輸入小麦も値上がりし、小麦の加工製品の末端価格も値上がりしています。挙げたら、きりがありません。たぶん、この流れは今後も続くでしょう。給与所得が減り続けている日本の庶民には厳しい時代になってしまいました。

このような事態に対して日本政府は、今年度から飼料用に米を生産すると、10アール当たり最大で12万円ほどの補助金を農家に支払うことになりました。

しかし、この政策によって飼料用の輸入穀物が大幅に減少するかといえば、それは難しいと私は予想しています。小規模農家の営農意欲があまりにも減退しているからです。

そんな穀物不足を回避しようと、食材を見直す新たな動きが始まっています。今世紀に入り、先進国でも昆虫食が見直され商品化の研究が進んでいます。さらに、培養肉の研究も始まりました。いずれも、家畜肉からの転換を意図しています。

もともと人類は、雑食性のため、昆虫も食べてきました。米作農家に育った私も子どものころ自家製のイナゴの佃煮を食べました。ウィキペディアによれば、現代でもアジアの29か国、南北アメリカ23か国、アフリカの36か国では少なくとも527種の昆虫が食べられているとのこと。世界で食用にされる昆虫の種類を細かく集計すると1400種にものぼるそうです。

昆虫食のメリットはいくつもあります。第一に、昆虫は安い草で育てられます。次に、飼育期間が短い。それもあって、エネルギー効率が非常に高い。牛などの家畜の数十倍の効率と言われています。逆に言えば、数十分の一の餌でいいということです。四つ目のメリットは、タンパク質の含有率が高いという点です。つまり、家畜肉の代用として使えます。五つ目は家畜より地球環境への負荷が少ないことです。牛などの家畜に比べ、飼育時に二酸化炭素などの地球温暖化物質の発生がはるかに少ないためです。牛などの反芻(はんすう)動物は消化のプロセスで大量のゲップを吐き出しますが、この中にはメタンガスも含まれています。メタンガスは二酸化炭素の数十倍の温室効果があり、国連のデータによると、家畜から排出されるメタンガスだけでも自動車とトラックの二酸化炭素の排出を合わせたよりも害が大きいそうです。

その他にもいくつかのメリットがありますが、ここに挙げただけでも、昆虫がすばらしい食材であることは明白です。

しかし現実には、牛や豚、鶏や羊などの家畜肉を食べてきた民族にとって、昆虫を食べることへの抵抗感あるいは拒否反応は根深く、その高いハードルを越えられるのでしょうか。

(文責:鴇田 三芳)