第414話 生命力を信じる

腐った人参が新しく根をたくさん出して生き延び花を咲かせようとしています 百姓雑話

すべての生き物は人間の認知が及ばない生命力をもって生きています。自分自身の体さえ知らないことが山ほどあります。

腐った人参が新しく根をたくさん出して生き延び花を咲かせようとしています

農作物も例外ではありません。はかり知れない植物の生命力に驚き、私は「植物のほうが人間よりも生命力があるかもしれない」と思うこともあります。

ところが、ほとんどの農民は農作物の生命力を信じているようには見えません。その代表的な例が農薬使用です。たとえば、千葉県庁の調べでは(令和7年6月24日公表)、キュウリの促成栽培の場合では76回、トマトの長期栽培は58回の農薬使用が一般的です。ハウス栽培のイチゴが42回、露地栽培の長ネギ(秋冬どり)でも38回です。葉物野菜のなかでは長ネギがもっとも多く、小松菜の5倍ほどの農薬使用が普通のようです。

確かに、これらの栽培は簡単ではありません。しかしそれは、生育環境が不適切であったり、より多くの収穫をより簡単に得ようとする身勝手がそうさせているのではないでしょうか。農薬を使わなくても、その生命力を信じその望みをくみ取り適切な対策をとれば、収穫にこぎつけます。作物によっては収穫量が少し減ることがありますが、ほとんどのものは変わりません。

農薬の散布は、病気や害虫の命を奪うだけでなく、作物と共生している微生物を減少させ作物の生命力も低下させてしまいます。そして、生命力が衰えたために病気がまた発生し、また農薬を使うという悪循環に陥ります。ひとたび悪循環にはまると、好循環に変えようと思っても容易に抜け出せません。

化学肥料も同じです。化学肥料だけで育てると、微生物の餌である有機物が減り続け、微生物も減り続けます。微量要素が減り、肥料の効きが悪くなり、肥料バランスが崩れたりもします。近年、作物の栄養が減少していると世界的な問題になっています。

「生命力を信じる」ということは私たち自身にとっても重要なことです。病気に対して医薬品を使えば使うほど、医薬品への依存を強め、自己免疫力や修復力が低下し、病気に対する感受性が狂ってきます。その一方で病原体は、細胞分裂の際の遺伝子変異によって薬剤耐性を獲得します。新型コロナウィルスのパンデミックの際に私たち人類が痛いほど体験したことです。薬剤耐性菌と新薬開発(とくに抗菌剤)の競争は終わることがありません。

自分の健康を考えるのと、作物の健康を考えることは同じことなのです。

(文責:鴇田 三芳)