第177話 命の季節(2)

百姓雑話

1週間ほど前、レタス畑の通路にウグイスがいた。うまく飛べない。巣から飛び出したばかりの若鳥と思われる。畑の裏手が深い森になっていて、春先からウグイスのさえずりが聞こえていたので、そのつがいの雛なのだろう。研修生とともに、その若鳥の前にたたずみ、どうしようか思案にくれた。もし親鳥が迎えに来なければ、初夏のような暑い日差しのもとで、死んでしまうかもしれない。また、畑にはよく猫が来るので、喰われてしまう可能性もある。妙案がなく、とりあえず涼しい作業場に連れてきて、水とミミズを与え、人から見えないところに置いた。ほどなく元気を取り戻した若鳥は、盛んに鳴き声をあげ、親鳥を呼び始めた。扉の隙間からそっと覗いていたら、2匹の親鳥が迎えに来て、どうにか一緒に飛んで行った。無事に生き延びられただろうか。

裏手の森からは、「ホーホー」というフクロウの声もする。通常は夜しか鳴かないのだが、なぜかこの季節だけは昼間から鳴いている。やはり子育て中なのだろうか。

開けた畑に出ると、上空からビバリのさえずる声が聞こえる。かつて、私のねぎ畑でヒバリの巣を見つけたことがある。ある時、上の写真のように、卵が1つ割れていた。他の動物に食べられたのだろうか。親の顔を見ないうちに、命が絶えてしまった。

4月の中旬以降、当地では雨がほとんど降っていない。そのため、雑草や野菜にとりついたアブラ虫が一気に増え、それを食べるテントウ虫などの益虫もいたるところで目につく。食欲旺盛なこれらの幼虫が大活躍する季節になった。

今年は、3月下旬から4月中旬にかけて例年になく雨が多かった。畑のいたるところに水溜りができ、その泥をツバメが巣づくりのために忙しく運んでいた。それが一段落した頃、雛が生まれたのか、親ツバメは畑の中を低く飛び小さい虫を捕食し始めた。今まさに子育ての真最中なのだろう。息つく暇もなく、初夏にツバメは2回目の産卵をする。命の営みに追われ、初秋には慌ただしく南方に渡っていく。

水田に行くと、カエルやアメリカザリガニ、タニシなどがちらほら目につく。これから産卵と子育ての季節が始まる。いたるところで生き物たちが子孫を残す営みにそれぞれ励んでいる。まさに命の季節である。

(文責:鴇田 三芳)