人口構成と経済の両面から、日本に老いが迫りつつある。人口構成では少子高齢化がもっとも深刻な問題かもしれない。経済面の問題はあまりにも多過ぎ、また私は経済学者でもないので、すべてをここでは述べられないが、特に気になるは国債や公債の債務残高と貧富の格差の拡大である。国の債務残高は年間GDPの2倍超え、国民一人当たり800万円ほどにもなったという。4人家族なら、3000万円以上も国に貸している計算で、その資金で立派な家が建つ。
債務残高が天文学的な金額とはいえ、その気になれば、簡単に減らせる。日銀法を変え紙幣をジャブジャブ印刷し償還すればいいだけである。しかし、そのような最終手段を決行すれば、必ず大幅な円安になり、ハイパー・インフレが襲ってくる。貧富の格差がさらに急拡大し、間違いなく庶民を犠牲にする。一歩間違えれば、かつてのように大量の移民を生むか、あるいは再び他国を侵略するかもしれない。
さて、その迫りくる老いに対して、どうすればいいのだろうか。第一の選択は、じょじょに小国化し、つつましくも安定した江戸時代のような循環型社会を再構築することである。もう一つの選択は、これとは正反対の道である。一か八か劇薬を飲み臓器を移植して若返るような方法、つまり持てる国力をすべて投入し最後の活路を見出すことである。今まさにその岐路に立っているような気がする。左に折れる小道には「TPP反対」という道標があり、右に進む高速道路には「TPP加盟」と書いてある。
この選択は、日本一国の問題ではなく、人類全体としての選択なのである。世界中が「明日は我が身」と注目している。よくよく考え、しかし、無為に時間を浪費してはいけない。手遅れになる。
どちらの道を選ぶにしても、まず計画的に実行すべきことは、国も地方自治体も民間部門も各家庭も、借金という輸血を減らしていくことである。期限を切って国債や公債の発行をやめるべきである。そして、国民全体で痛みを分かち合い、借金経済を反転させなければならない。インフレの時は借金経済が有利と見なされてきたが、デフレに転ずると借金経済は重い負担になる。破綻したダイエーがいい例である。「土地を担保に借金し新たに出店する」手法で急拡大してきたダイエーだが、バブル経済の崩壊とともにあっという間に破綻してしまった。時代の流れを洞察できなかったからである。
もう一つ大事なことは、血液が吹き出している傷口を速やかに縫合することである。国債発行を年々増やしても経済が一向に上向かないのは、どこかで出血しているからである。その出血の根本原因を探ると、時代のニーズに合わなくなった統治機構や行政手法、あるいは経済活動を歪めてしまった拝金主義に行き着く。これらの原因を思い切って手術するしかないであろう。例えば、中央集権体制からアメリカのように州制にするとか、「予算ありき」ではなく歳入に合わせて歳出する行政に代えるとか、大胆な変革が必要である。また、拝金主義を抑制するには、財産権や生存権などの憲法に抵触しない範囲で、不労所得にもっと課税すべきである。貧富の格差の縮小にもなる。
そして、何より重要なことは教育を大胆に変えることである。国家の最大の財産は人である。特に若者である。若き血潮みなぎる若者が未来に希望を抱き未来を担えるような、温かい血のかよった教育に変えなければ、いかなる方策も一時しのぎで終わるであろう。
(文責:鴇田 三芳)