第47話 血(2)

百姓雑話

農業を始めてから、じょじょに野菜中心の食事に切り替えてきた。そのためか、いくつかの変化が現れてきた。まず10キロほど痩せた。便通が良くなり、便秘などしたことがない。昔は年に何度か風邪をひき発熱することもよくあったが、食事の内容を変えてからは、インフルエンザに感染しても発病しにくくなった。もう10年近く風邪やインフルエンザで寝込んだことがない。たぶん、食事の変化により血液の内容物と血行が改善され、免疫力が高まったためであろう。しかしその一方で、馬力もなくなった。筋力が年々衰え、重い物が持てなくなった。今では、主に研修生とボランティアの皆さんが力仕事を担ってくれている。

また数年前からは、動物性たんぱく質を人並みに摂ると、何か「血が濁り、淀む」ように感じる。特に油ぎった肉類を食べた時は、てきめんである。全身がだるくなり、心臓に負担がかかり、頭の回転が鈍くなる。そして、体中の細胞の活力が失われ、体調を崩しやすくなる。

さて、世の中に目を向ければ、社会にも血が流れている。物と通貨である。右肩上がりのインフレの時代は、育ち盛りの子どものように、物と通貨が社会の隅々まで勢いよく循環し、活気に満ち、経済規模は年々増え続け、ほとんどの人が豊かさを実感できる。明日に希望を持てる。

ところで、今の日本は何歳くらいであろうか。それほど若くないのは確かである。バブル経済がはじけ、もうかれこれ20年ほどデフレ経済が続いてきた。周辺国の経済力がますます伸びてきたというのに、日本の経済力は衰える一方である。かつて世界を席巻していたSONYやPanasonicなどのエレクトロニクス分野でさえ、大幅な赤字を出し、産業の裾野が広い自動車業界も苦戦している。これら大企業の海外進出に追従して海外に生産拠点を移した中小企業はさらに苦しい。高度な技術力と長年蓄積してきた製造ノウハウを駆使して巻き返しを必死に図っているが、世界市場が飽和状態に近づきつつある現状を考えれば、けっして楽観できない。

この間、政府は国債をじゃぶじゃぶ輸血し国力の回復を図ってきたにもかかわらず、一向に改善してこなかった。それどころか、社会の血は濁り、淀み、心拍数が減り、血管は堅くなり、末端までなかなか血液が回らない状態が続いてきた。そのため、庶民の可処分所得は減り続け、貧富の格差が広がるばかりである。このままいくと、老化が急速に進み、血管が詰まり、あるいは破裂し、心臓や脳をやられてしまうかも知れない。つまり、デフォルトである。

こんな状況はいつまで続くのであろうか。どうすれば良いのだろうか。

(文責:鴇田  三芳)