第88話 糞

百姓雑話

あなたの大便は悪臭を放つだろうか? 大便をした後に紙で何度も尻を拭くだろうか? 人はなぜ大便を汚いと嫌うのだろうか? 食べ物の話しに夢中になることはあっても、大便の話題で盛り上がることは、まずない。とても不思議である。

ところで、「人の糞も昔は大事な資源であった。」と言っても、今の若者は何のことやら想像できないかもしれない。私が幼い頃は、ごく普通に人の糞尿を畑にまいたり、堆肥の材料としていた。江戸時代には人糞がしっかりと売買されていた。町民が排泄した膨大な量の糞尿は、郊外の農村地で貴重な肥料として使われ、農産物として町民の食卓に戻ってきた。産業革命を興した欧米人でさえ、衛生的な江戸の町を見て驚嘆したという。江戸は、世界に冠たる大都市であったにもかかわらず、リサイクルが行き届き衛生的であったからである。

ところが、現代ではどうであろうか。人糞がカネになるどころか、世界中で、その処理に膨大なカネとエネルギーをかけている。そして、ほとんどの人は、糞尿を汚い存在と思うだけで、他の視点から糞尿を見ることなどない。しかし私は、食べ物と同等に糞尿がとても気になってしょうがない。なぜなら、その状態で体調がわかるからである。特に大便は胃腸の状態を如実に語ってくれる。時には、その大便が命取りになることさえある。直腸ガンはその一例である。それくらい、糞の状態は重要である。

また、外で糞をする猫を見れば、排便の重要さがよくわかる。猫は開けた場所で用をたす。特に畑が好きである。どこからも見えてしまう所でする。その最中に外敵から襲われた場合でも、即座に逃げられるようにとの警戒心からであろう。それくらい、猫は排便に神経を使っている。人間は、猫とはまったく逆で、人目をさけて鍵のかかる小部屋で用をたす。やはり、警戒心からである。

農場でも、糞は重要である。農薬を使わないのでどうしても害虫が発生してしまうのだが、大型害虫はその糞で害虫の種類、大きさ、潜んでいる場所などがわかる。これから秋にかけては、野菜を食べた様子と糞をたよりに、害虫を一匹一匹探し当て手でつぶしていく。糞の処理をいい加減にした害虫が命を落とすことになる。

さてさて、冒頭の臭い話しに戻ろう。もしアナタの大便が悪臭を放つようであれば、それは何らかの問題を示すサインと思った方がいいであろう。さらに紙で何度も大便を拭き取るようであれば、ほぼ間違いなく、不健康の兆候である。なぜなら本来、生物は糞をほとんど拭き取ったりしていないからである。医学の素人ながらその原因を想像してみると、人間の体に合っていない食べ物を食べているか、消化器内の微生物に問題があるか、生活が乱れているか、あるいは消化器系に病気があるか、・・・・・・・・・・・。いずれにしても、問題であると私は思っている。

たかが糞、されど糞である。大便は消化器系の健康状態を示す非常に重要なバロメーターである。もちろん、尿も同じである。汚いと忌嫌わずに、ぜひとも親しみと愛着をもって眺めていただきたい。

そして、できれば義務教育で、食べ物について教えるだけでなく、糞尿などの排泄物についても教えるべきではないだろうか。

(文責:鴇田 三芳)