「農薬は植物を病気や害虫から守り救う薬である。適切に使用すれば、人間に対する毒性は問題ない」というのが、製薬メーカーの言い分であろう。もちろん、農薬の生産と使用を規制している農林水産省も同様の見解を持っているはずある。しかし、農薬は本当に安全なのだろうか。
まず、農薬の概要を述べよう。野菜に対して頻繁に使う農薬には、殺虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤、除草剤、土壌燻蒸剤(どじょうくんじょうざい)などがある。5番目の土壌燻蒸剤は、土の中の害虫や病原菌を殺す目的で使われ、上空のオゾン層を破壊すると指摘されている物もある。ハウスで毎年同じ作物、例えばトマトや胡瓜などを栽培する農家は、ほとんどの場合、土壌燻蒸剤を使っている。これを土の中に注入することを土壌消毒というのだが、野菜にとって良好な微生物までも殺してしまうので、一度使うとなかなか止められなくなる。その点では、他の農薬も似たり寄ったりである。
次に、毒性の強さで分類すると、普通物、劇物、毒物、特定毒物の順に毒性が強くなる。日本では、かつて多くの農民を殺した有機リン系の農薬に代表される毒性の強い物から、徐々に毒性の弱い物に切り替わってきた。現代では、微生物農薬という毒性の極めて弱い農薬があり、法律上、有機栽培でも使用できる。「有機農産物には農薬が使われていない。」という認識が消費者の中では一般的だが、この認識は正確ではない。
三番目には、その残効性も知っておく必要がある。簡単に言えば、速やかに分解し毒性が薄れてしまう農薬と、なかなか分解せず農産物に長く残留し効果が持続する物とがある。農薬を散布する者にとっては、省力化と「農薬の使用回数を減らした」というイメージ・アップのために、長く残留する農薬を使いたい衝動にかられる。
四番目は、農作物の中に農薬が浸透する問題である。大産地のキャベツや白菜、ブロッコリーなどには、ほぼ例外なく、浸透性殺虫剤が使用されていると私は推察している。この近辺の小規模農家でも使っているのをよく見かけるからである。この殺虫剤は、害虫に直接吹きかかけて殺すのではなく、土の中に農薬を混ぜて植物に吸わせ、それを食べた害虫を殺す農薬である。だから、いくら洗っても農薬は落とせないのである。また、ピーマンや枝豆などは実の中に害虫が入るため、内部に浸透する殺虫剤が使われることがある。
五番目は、農薬を使用してから収穫するまでの期間の問題である。例えば、トマトや胡瓜、苺などの実を食べる野菜は、法律上、収穫の前日でも農薬をかけられる。極端に言えば、夜中の23時に農薬をかけ、1時間後の翌日の0時から収穫しても違法ではない。だから、苺狩りなどで洗わずに苺をガバガバ食べることなど、危険極まりないと私は思っている。どんなに分解が早い農薬でも、1日や2日で分解してしまうはずがないからである。
最後に、農薬の長期的な影響と母子感染を指摘したい。特に私が気にしているのは母親から子どもへの移行がある。胎盤を通して妊婦から胎児へ農薬成分が移行する可能性と母乳を介して乳児へ移行する可能性である。何を食べるかは母親の自由なのかもしれないが、摂取する物を選べない胎児や乳児は本当にかわいそうである。
(文責:鴇田 三芳)