第155話 新たなグレート・ジャーニー

百姓雑話

初冬の冷たい北風が吹く日、近くの大きな調整池に鴨が飛来した。長旅の疲れをいやすかのように、風に揺れてキラキラ輝く陽だまりをゆっくり泳いでいる。鴨の体を人間に換算すれば、世界一周くらいの距離を飛んで来るのだろうか。その旅は、まさに生き延びるためのグレート・ジャーニーである。

前話の続きである。

現在、香港や台湾では学生などが政権への抗議行動を続けている。貧富の格差を背景とする世代間闘争である。日本でもこんな経済、社会状況がさらに進めば、遅かれ早かれ若者による闘争行動が始まるのは、火を見るより明らかである。その火種は中東やウクライナに、そして日本の周辺にもある。

そんな事態を避けるため、安倍政権はアベノミクスを推進している。しかし今までのところ、高額所得者や資産家をさらに富ませる一方で、年金受給者や低所得者の生活を苦しくしている。私には、この政策が太平洋戦争中に軍票を乱発し戦費を調達した政策に重なって見える。当時でも冷静に考えれば、紙切れ同然になるかもしれない軍票を乱発したところで、圧倒的な物量を誇るアメリカに勝てないことは容易にわかったはずである。

アベノミクスによらない解決策、それも武力によらない解決策を二つ提案したい。一つは、20年以上も続けてきたデフレ経済をこのままゆっくり続けることである。すでに物質的な豊かさがほぼ飽和容態になり、人口が減っていくのだから、けっして難しい生き方ではない。昔のように親と同居すれば、持ち家のために一生を捧げる必要もなく、所得が減っても結構ゆとりのある生活を営めるだろう。

そして、もう一つの解決策は大規模な移住である。日本の円が強いうちに、世界中に移住するのである。おごらず、いばらず、その国やその地域の人々に少しでも貢献すれば、生きていけるはずである。国内に残った者は、豊かさを享受しつつ、円が暴落しないように、また他国から侵略されないように思慮深く生きていけばいい。その気になれば、この解決策も難しくはない。今や一日で世界を一周でき、どこにいても瞬時に情報とお金のやり取りができる時代である。もう島国根性を捨てようではないか。住めば都である。

ひとつの例は老人ホームである。今まで介護職員を東南アジアから呼び寄せる政策を続けてきたが、その逆の政策はどうだろうか。国際紛争に巻き込まれにくい国に老人ホームを作り移住する。年金額が減っても、十分豊かな老後をおくれよう。この政策で気がかりなことは良質な医療と治安の確保であろうが、ODA資金で現地に日本の医療機関を作り、手ごろな値段で現地の人々にも医療サービスを提供し、あわせて現地の医療スタッフの技術レベルを向上すれば、医療と治安の問題はなくなる。まさに、一石二鳥三鳥である。

もはや、物やお金だけで他国と関係を良好に保つ政策には限界が見え始めている。これからは、日常生活に密着したサービスと文化、そして市民レベルでの交流や混住によって他国との良好な関係を築く時代である。近年、世界に浸透しつつある日本の顔は日本食やアニメ、そしてユニクロやイオンなど、どれもこれも文化やサービスである。

長いスパンで時代を見とおせば、戦火を交えないで人類が末長く生き延びるため、新たなグレート・ジャーニーに挑む時代にさしかかっているのである。

(文責:鴇田 三芳)