第171話 命の季節

百姓雑話

いたるところ花盛りである。真冬に咲くクリスマス・ローズから始まり、椿、パンジー、梅、もくれん、ろうばい、水仙、桜、桃、梨、そして林檎と、次々に咲いてくる。

彼岸を過ぎると、畑の中も春一色になる。降水量が増え日差しが強くなるので、冬を越した野菜が急に大きくなる。収穫しきれなかった小松菜は、写真のように人の背丈ほどにもなり、黄色い花をたくさん咲かせる。このように大きくなった小松菜も、耕して土に戻すと土が良くなるので、まんざら悪くはない。さらに、その独特の甘い香りに誘われて、どこからともなくミツバチが花粉を集めにやってくる。これまた、役に立っている。

小松菜と同じ十字花科(俗称:アブラナ科)の大根、白菜、キャベツ、ルッコラ、タアサイなども一斉に咲き始める。いずれも、その名のとおり4枚の小さい花びらが十字に開く。一つひとつの花は小さいものの、大量に咲くので、とても見ごたえがある。

その一方で、厄介な雑草もいっせいに花を咲かせる。ホトケノザは小さいピンク色の花を咲かせる。このホトケノザは、第3話「ホトケノザ」で指摘したように、害虫のアブラ虫が寄生しやすいので、彼岸頃までにはきれいに片付けなくてはいけない。この地味な作業を怠ると、6月頃までアブラ虫に悩まされ続ける。無農薬栽培の農民にとっては冬から早春にかけての草対策は不可欠、必須の作業である。

鳥たちにも春が来た。ピーピーとかん高い鳴き声をあげて野菜を喰い荒していたヒヨドリがどこかへ渡っていった直後からウグイスが盛んに鳴き始める。菜の花が満開になる頃には、ピヨピヨと鳴きながら鳩くらいの大きさの鳥が南方から渡ってくる。この鳥は、必ずつがいで、愛を確かめ合うかのような飛び方をする。そして、ゴールデン・ウィーク頃になると、営巣しているヒバリが、上空でホバリングをしながら、軽やかな歌声を響かせる。その頃は、もう初夏の兆しが見える。

まさに今、命が躍動し始める季節の到来である。

(文責:鴇田 三芳)