今日は24節季の「雨水」。この頃から、寒さも緩みはじめ、雨もそこそこ降るようになる。
私どもでは、ハウス栽培をしていないので季節の移ろいに合わせ、この頃から頻繁に種をまく。ほうれん草、小松菜、レタス、ブロッコリー、キャベツなどの葉菜類に加え、実のなる夏野菜もまき始める。すでにピーマンと茄子をまいた。3月に入ると、トマト、カボチャ、いんげん、きゅうり、オクラなどを次々まくので、育苗施設が手狭になる。温度管理と水やりに気が抜けない。
本話では無農薬栽培のポイントについて述べよう。ポイントはいくつかあるのだが、その一つが生育温度をできるだけ低温に保つこと。何かの本に、「人間は幼いころに体質が決まる」と書いてあったが、野菜もまったく同じだ。特に生育初期を低温にすると、非常に丈夫な野菜になる。「三つ子の魂百までも」という諺があるが、植物にも当てはまるような気がする。この時期を過保護にすると、環境変化に対する適応力が弱くなってしまう。ホームセンターなどで売られている野菜苗は、弱々しく育てられ、哀れである。苗業者は、施設の回転を速くするために高温に管理し、短期間でひょろひょろと育てている。
余談だが、ほとんどの豚、鶏、牛も同じような境遇に置かれているらしい。餌をどんどん喰わせられ、抗生物質とホルモン剤も飲ませられる。もちろん、できるだけカロリーを消費しないように運動は制限される。短い運命をたどり、一気に「お肉」へと仕立て上げられるという。
私どもの農園に話を戻そう。幼い野菜を限界に近い低温にさらすのは気をつかう。電気による加温をしていないので、厳しい寒波が襲ってきた時などは防寒対策をしっかりしなければならない。被害が予測されても「多分、大丈夫だろう」と横着した翌朝、悲惨な光景を目にしたこともある。自然はそんなに甘くない。心の隙を突いてくる。
科学的知識や情報をインターネットで手軽に得られる現代では、農業に関する限り、不測の自然災害などほとんどない。多くの災害は心の甘さ、横着、強欲の結果である。
そんなこんなで、20年以上もこんなことを続けてきた私は、厳しい環境下でゆっくりではあるが着々と育っている野菜を見ていると、わが子のように思えてくる。
(文責:鴇田 三芳)