第172話 食物が心身に与える影響(1)

百姓雑話

私が幼い頃と比べると、日本人の顔や体の型が大きく変わったような気がする。外見上わかりやすいのは、顔の輪郭、歯の形と並びと数、鼻の形、脚の長さ、肌と髪の色、目の位置と瞼(まぶた)の形、腕の長さなどがある。これらのなかで、顔、歯、目、脚、鼻の変化は、食物との関連が強いと私は考えている。

まず、顔と歯。よく指摘されていることだが、えらの張った人がとても減った。これは、硬い食べ物を嫌い、軟らかい物を好んで食べることが影響していると言われている。同じ理由で、歯の数や歯並びが変わった。親不知(おやしらず)が生えてこない人がほとんどで、なかには親不知そのものが歯ぐきの中に形成されない人もいるという。また、軟らかい物ばかり食べているために顎が小さくなり、歯が整然と並ばず、窮屈に並んでいる。昔なら「歯並びが悪い」と言われたものだが、現代では「かわいい」とか「小顔」などと肯定的に捉える人も珍しくない。

歯に関してはもう一つ、大きく変化した点がある。いわゆる「出歯」が減ったことである。昔は前歯が前に出ている人がごく普通にいた。今では歯科矯正で出歯を直す人も多いだろうが、食べ物が草食から肉食に変化したことが主因だと私は推測している。そう思う根拠は、草食動物と肉食動物の歯並びを見れば、歴然としてくる。馬や鹿、キリンなど植物を主食とする動物は出歯である。草や葉をかじり取るには、前歯が前に出ている方が都合がいい。一方で、猫科などの肉食動物は前歯が内側に反っていないと、噛みついた獲物に逃げられてしまう。同じ理由で、肉食のサメの歯も内側に向いている。

目の位置もだいぶ変わった。内側に寄ってきた。これも肉食化の影響だと思う。草食動物は身を守るために、目が両脇に付いていて360度見渡せた方がいい。しかし、肉食動物は獲物との距離を正確に把握するために、鼻筋の近くに寄っている。かつて、ビヨルン・ボルグという名テニス・プレイヤーがいた。彼は、両目がかなり近くに寄っていた。強豪なはずである。

さらに、日本人の脚が長くなったのも、肉食化の影響と思われる。獲物を捉えるためには、長い脚で早く走る方が有利であるが、草食系の生き物は腸が大きく長い方が有利なので、どうしても胴が長く大きくなる。かつて、エチオピアに行ったことがあるが、肉食を好む北部の人々は北欧人のような顔と体型をしていた。しかし、南部の農耕民族は、昔の日本人と同じように、ずんぐりむっくりであった。

最後に、鼻の形。どうも肉食化すると、鼻が低く横に広がっている、いわゆる「団子鼻」から、鼻が高くその幅が狭くなるような気がしてならない。なぜか理由はわからないが、日本人の鼻は確かにそう変化した。整形だけの影響ではないだろう。カンボジア人もそのように変化したようである。

これらの例のように、食物が私たちの体に与える変化や影響は、自覚している以上に、計り知れないほど大きいと私は思っている。

(文責:鴇田 三芳)