前話では、食べ物が身体に与える影響を考えてみた。今話では、感情や思考などに及ぼす影響を考えてみたいのだが、このテーマについて学術的に語る能力を私は持っていないので、ここでは少ない知識を寄せ集めた推察になる。
かつて、こんな映像をテレビで見たことがある。野生のチンパンジーの群れが小型のサルを狩り、おいしそうに食べる様子である。その一部始終を観察していた動物学者によると、チンパンジーは肉食を好んでいるらしい。その一方で、同じ類人猿でも、オラウータンは草食である。そして、前者は闘争的であるが、後者はおっとりとした性格で樹上生活を営んでいる。
さて、われわれ人間は、どうかと言えば、明らかにチンパンジーに酷似している。それも、経済的な余裕にともない、草食からどんどん肉食化している。日本食が先進国を中心に健康食として認識されつつあるものの、やはり人類全体としては肉食化が主流である。
米ソの冷戦が終わり核戦争の脅威がわずかに薄らいだものの、世界各地で局地戦が増えてきた。とりわけ近年、アラブ諸国での戦闘が激化しつつある。このアラブ諸国民は、基本的に遊牧民で、羊や山羊などの肉を主食としている。
今から一世紀半ほど前、欧米諸国による植民地化を拒み、日本は明治維新を境に世界に乗り出し、「脱亜入欧」を施政の柱にすえ、欧米化を一気に進めた。その勢いをかって、アジア諸国を統治し植民地化したものの、覇権国家アメリカの経済制裁に窮し、大国アメリカに戦争をしかけてしまった。客観的に考えれば、勝てる相手ではないアメリカになぜ挑んだのか。
私は、その理由をこんなふうに推察している。「その当時の日本人は草食系のため、闘争的な性格が希薄で戦い方を熟知していなかった」と。別の表現をすれば、「草食系のため、戦い方を論理的に思考する能力に欠けていた」とも言える。まさに「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」の諺をそのまま体現したのである。
食べ物が思考に与える例をもう一つ挙げる。私は今まで多くの欧米人や遊牧民に会ったが、本質的に彼らは肉食系である。その彼らに共通している点の一つは、議論に長けていることである。とにかく自己主張を口にする。基本的に自分の要求や意志を主張し続け、簡単に妥協しない。「言わなくたって分かるだろう」などという阿吽(あうん)の呼吸はほとんど通用しない。そして、激しい口争いをしても、一件落着すれば、何もなかったように笑顔で抱き合い握手する。
こんなふうに考えてくると、食べ物は私たちの心に大きく影響し、肉食化は性格を闘争的に変えるように思えてならない。想像を飛躍すれば、人類が紛争や戦争から開放されない原因は食べ物にあるのかもしれない。
(文責:鴇田 三芳)