第70話 苺(いちご)

百姓雑話
露地栽培のイチゴの花が咲き始めました。

無農薬栽培の露地苺が実った。胸がつまるくらい、おいしい。

私がなぜ苺の無農薬栽培にチャレンジしたかと言えば、ビタミンCがとても豊富に含まれ、おいしく、手軽に食べられるからだ。妻も私も大好きだ。

しかし、現実は甘くない。病害虫に対する農薬以外の対策が非常に難しいからだ。くわえて、一年中世話をしなければならない。にもかかわらず、収穫期間が非常に短いことから、赤字になるのは目に見えている。それでも、5年ほどの実験を繰り返し、技術的な問題はどうにかクリヤーできる目途が立ったので、やっと昨年秋から栽培し始めた。

ぜひとも栽培しようと強く願い、こつこつと努力してきたからか、良縁にめぐりあえた。2年前、たまたま借りた農地の隣に苺をハウス栽培している農家があったのだ。その農家は、こころよく苗を譲ってくれただけでなく、技術的なことも丁寧に教えてくださった。本当にありがたい。

もちろん、頂いた苗には農薬が使われている。しかし、私どもの畑に昨年植えてからは農薬を使っていないので、一般に売られている苺から比べれば、桁違いに安全なはずである。何しろ苺は、法律上、収穫の前日でも農薬を使っても構わない。つまり、深夜12時までにかければ、翌朝には収穫し販売できる。この点は、トマトや胡瓜も同じである。葉菜や根菜類では、こんなことは違法である。農薬散布後、一定期間たたなければ販売できない。そもそも、国が定める農薬基準は生産者寄りの法律である。

ちなみに、千葉県庁が公表している標準的な農薬使用回数は、苺の場合40回以上である。そのような苺を苺狩りなどで洗わずにガバガバ食べることなど、私には信じがたい行動である。今どき、目で見て散布したことがわかるような農薬を農家は使っていない。
だからと言って、私は農薬づけの苺を買ってまで食べたくない。無農薬栽培すれば赤字になるのは明らかであるが、金銭では得ることのできない、ささやかな贅沢を味わいたいのだ。その贅沢は、斜陽産業で明けても暮れても悪戦苦闘している農家の特権だ。

最後に余談だが、「苺」という名は見事に体をあらわしている。あの形と色と模様は乳首を連想させるからだ。くわえて、自然に生えている苺は、ランナーという茎を四方八方に伸ばしテリトリーをぐんぐん拡げてゆき、病気や害虫を寄せつけない強靭さも備えている。まさに、母のような植物だ。

(文責:鴇田 三芳)