第317話 冬の時代

百姓雑話

今日は立春。暦の上ではこれから春が始まる。早朝の気温はこの頃がもっとも冷えるものの、西高東低の冬型の気圧配置が長続きしなくなる。ひと頃よりも日差しの強さが増してきた。光の春の到来である。

ところで、このところ食品価格が値上がりしている。価格据え置きでサイズが小さくなったものが少なからずある。とりわけ今冬は葉物野菜が非常に高く、消費者は泣かされている。生産する側から見ても、「何でこんなにも高いの?」と、首をかしげるほどである。これまでも晩秋から早春にかけて葉物野菜が高騰したことは度々あったが、今回は従来の高騰と何か違う。レタスなどの一部の葉物野菜が高いのではなく、ほぼ全てが高い。くわえて、この時期の定番野菜である大根までもが高い。こんなことは記憶にない。

今回の高騰の原因は、「夏から秋にかけての多雨と台風襲来、そして秋から冬にかけての低温」と指摘されている。確かにこの指摘は妥当である。間違ってはいない。

秋冬野菜のほとんどは晩夏から中秋にかけて作付けられる。この時期に雨の日が多かったため、作付けが思うようにできなかった。そのうえ、どうにか作付けでも、台風の被害を受けたり低温で生育が悪くなったりと、天候の悪影響が重なった。だから消費者も、「高くて困ったけれど、仕方ない。泣く子と天気には勝てない」と、しぶしぶ納得している。

しかし、本当にそうなのだろうか。天候異常は今始まったことではない。晩夏から中秋にかけての長雨は今までもあったし、台風だって毎年のことだ。気象庁の3カ月予報を常にモニターすれば事前に予測がつき、その気になれば対策が打てる。

天候以外の原因もあるはずである。

私は、天候要因の他に、もっと深刻な原因があるような気がしている。それは、農家の高齢化である。ボクシングにたとえれば、天候要因は顔面への強烈なパンチで、農家の高齢化はボディブローのようなものである。いわば高齢化という原因は、たまたまの現象ではなく、長く続いてきた構造的な現象である。「日本の為政者や消費者が農業を蔑(ないがし)ろにしてきた当然の結果である」とも言える。

このところ、野菜だけでなく、加工食品の値上がりも続いている。理由として原材料の輸入価格の値上がりが指摘されているが、もっと根本的な理由があることも見逃してはいけない。それは「食品ロス」である。日本では主食の米の生産量よりも多くの食品を捨てている。この食品ロスも食品価格を確実に押し上げている。

一体どうして日本人は、農業を蔑ろにし、食べ物をこんなにも粗末にするようになってしまったのだろうか。私には日本人の食に冬の時代が来てしまった気がしてならないのだが、・・・・・・・・・。