第316話 青春の残り火

百姓雑話

山の景色厳寒の朝、森から昇る初日の出を拝んだ。まさに光の世紀を象徴するかのような光景に感動しながら、新年を迎えられた。

今や世界は新たなエネルギー革命に突入した。木から石炭へ、石炭から石油へとエネルギー・シフトしてきた人類が、石油から電気へと一気に舵をきった。私は、こんな時代が来るのを30年以上も前から切望していた。

私が電子部品の製造会社に就職した頃、日本中が公害問題に悩まされていた。まるで近年の中国のようであった。そんな時代背景に突き動かされ、私は会社を辞め、環境保護の仕事かソーラー発電事業への転身を試みた。しかし、あっけなく挫折。前者は学力不足で、後者は発電の採算性があまりにも悪かったために。その当時、サンヨー電機が世界に先駆けてソーラ―・パネルを量産化したものの、発電効率が7%くらいしかなかった。到底、既存の発電システムに太刀打ちできる代物ではなかった。

そんな訳で、私は人生二度目の挫折を味わった。幸いその後、親友のお陰でどうにか挫折から這い上がり、四半世紀前から農業に就いた。

ところが、三年ほど前、青春の残り火がめらめらと再燃した。産業廃棄物などの処理を行なう会社に勤務していた青年T君が、ソーラー・シェアリングを会社として取り組もうと、農業研修に来始めたからだ。ソーラー・シェアリングとは、農地にソーラー・パネルをまばらに設置し、その下で農産物を収穫するというシステムである。つまり、農地で農産物と電気を得るシステムである。

いろいろあったが結局、T君の熱い思いは上司に通じず、ソーラー・シェアリング事業を私たちは一時凍結することにした。

ところがとことが、昨年春に何度か農業研修に来た青年S君が、ソーラー発電と売電を行なっている大手の会社に今年初め転職したのである。彼は、会社で農業を事業化しようと志し、今月から本格的に研修に来始めるという。そのS君が言うには、T君と私がエネルギーと食料の問題を熱く語っていたことに触発され、前述の会社を転職先に選んだとのこと。

神は私たちを見捨てていなかった。老体に相談しながら、残された人生を青春の残り火で燃やし尽そう。