第43話 農地は誰のものか?(2)

百姓雑話

土地は、お金さえあれば、誰でも自由に買える。農地も、農家か農家出身者であれば原則的に誰でも買える。

しかし農家でない者が、農業をしようと猛勉強し資金をいくら用意しても、農地は容易に買えない。借りることさえままならず、農家になるには高いハードルを何度も越えなければならない。農家出身者であれば、能力や適性に関係なく誰でも農家になれるというのに、である。それは、「農地法」という法律があり、実質的に今も世襲制が主流になっているからである。

この農地法とその運用は、既に形骸化し、日本の置かれた食料と農業の現状にそぐわない。そもそも農地法は、「耕作する者が農地を所有する」ことを基本にすえ、耕作していない農家を排除するために制定されたにもかかわらず、現実には耕作していない農家でも農地を保有し続けている。なぜなら、農地は非課税かほとんど課税されないため、保有していてもコストがかからないからである。住宅ローンに人生の多くを捧げた人には信じられないだろうが、農業をしていない農家の中には自分の農地がどこにあるのかさえ知らない農家が少なからず存在する。

また、農家が有する特権も問題である。農業委員会の許可を得て、農家は所有する農地を農業以外の用途で売ることができる。宅地として売ると、農地の相場の100倍近くの値段がつく。したがって、「農地を耕作していなくても、保有していればいつか高く売れる」という期待感が、農地の流動化を妨げ、耕作放棄地が増え続けた要因となっており、非農家出身者の農業参入と専業農家の農地拡大を困難にしてきた主因ともなっている。さらに農家は、自分の子どもや親族が農業をしていなくても、彼らのために農地に住宅を建てられる。しかし、農家以外の者はこんな打出の小槌を持っていない。

農業の活性化と食料の増産を目的に農地法を制定したものの、農業経営の厳しさと、このような特権なども関係し、耕作放棄地が増え続け、農家の兼業化が進み、食料自給率が下がり続けてきた。さらに兼業農家は、農業以外の収入があるために、農産物を安く売る傾向があり、専業農家の経営を圧迫してきた。その結果、専業農家が激減し、農家の1割ほどになってしまった。

このような現状を生み出してきた農地法とその運用は憲法に抵触するのではないかと私は思っている。法律の専門家ではないので確信はないが、憲法14条で保障された「法の下の平等」と、22条の「職業選択の自由」に反するのではないだろうか。人命を預かる医師でさえ、国家試験を通れば、誰でも、外国籍の人でも、医師になれるというのに、同じく命を支える農業の分野はほとんど世襲である。農民になる機会を万民に等しく保障しない、人の持つ可能性の芽を摘むような法律や制度は日本の食料事情に明るい未来をけっしてもたらさない。

(文責:鴇田  三芳)