第331話 今だけカネだけ自分だけ

百姓雑話

こんな風潮が日本で顕著になったのは、自由経済を促進するWTOが設立され経済のグローバル化が世界中に広がった頃からでしょうか。日本はこの時期、バブル経済がはじけ経済力が衰えはじめた頃でもありました。

経済の右肩上がりが続いていた頃は、「今だけカネだけ自分だけ」などという言葉は耳にしませんでした。ほとんどの国民は、「一億総中流」意識を持ち、未来に希望を抱き、来年も給料が上がると確信していました。大企業から中小企業まで、職場には村社会のような団結が強くあり、社員運動会や社員旅行はごく普通に行なわれていたものです。「自分だけ良ければいい」などという意識は希薄でした。

村社会も同様で、農業であれ林業であれ漁業であれ、「今だけカネだけ自分だけ」とは真逆な意識と慣習が深く根づいていました。農家は、先祖から受け継いだ農地を大事に使い、より良い状態で未来へと渡すのが当たり前。「自分だけ良ければいい」などという意識があっては、稲作など不可能です。村人総出で用水路を管理し水を平等に使わなければ、まともに米は作れません。村の慣習や伝統を破れば、それこそ村八分という厳しい制裁が加えられました。

そんな村社会にも、今や「今だけカネだけ自分だけ」という風潮が支配的になりました。今から見れば、農業分野では1960年代から、この風潮が芽生えはじめた気がします。農家の息子や娘が都会に就職していき、農村社会が崩壊へと向かいはじめた頃です。

この風潮は農作業も劇的に変えてしまいました。それは農薬と化学肥料の使用です。人手を都会に奪われてしまった農民にとっては仕方なかったことかもしれませんが、皮肉にも、そのような手っ取り早い農法が農業衰退の一因になろうとは、ほとんどの農民は予想していなかったでしょう。

堆肥を畑に撒(ま)くのを止め化学肥料を撒きはじめても、10年くらいは収穫量がグンと増えて儲かるので、止められない。気がつけば、地力が衰え病気が発生しやすくなっていました。当然、農薬の使用量は増え続けました。近年、日本の面積当たりの農薬使用量は、中国、韓国に次ぐ3位で、何とアメリカの5倍近くにもなっています。

農薬は、土の中の微生物と農地周辺に生息する虫たちを激減させてしまいました。人間の消化器系が何十兆個、何百兆個もの腸内微生物の働きによって満足に機能している事実を知っているなら、この激減が植物に計り知れないダメージを与えたことは想像に難くないでしょう。

菜の花3月下旬、菜の花を収穫していたら写真のようにミツバチが花にとまっていたので近づくと、死んでいました。花の受粉に不可欠なミツバチが世界的に絶滅の危機に瀕していると言われていますが、自分の現場でもひしひしと感じられます。10年くらい前までは満開の菜の花にミツバチが群れをなしていましたが、今ではほとんど見かけません。かつては、カボチャやズッキーニはミツバチなどの虫たちが受粉してくれたので、自然に実がついたものです。しかし、今では人が受粉しなければ、まともに実がつかなくなってしまいました。何と自然は正直なのでしょうか。

「今だけカネだけ自分だけ」は未来を喰いものにするだけで、未来に希望を抱けません。

(文責:鴇田 三芳)

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