「先生、おとといから微熱と鼻水が出はじめ、昨日からは少し咳が出るようになりました。」 「そうですか。胸の音を聞いてみましょう。」と内科医が聴診器をあてる。「下痢や頭痛はありますか。」 「いいえ。」 「カゼですね。5日分、カゼ薬を出しときましょう。もし熱が上がったら、解熱剤を飲んでください。咳で苦しいときは咳止めも飲んでください。薬を飲み切っても症状が続くようでしたら、また来てください。」 よくある会話です。私は、こういう対応しかとらない医師をできるだけ避けたい。人間をただ物のようにしか見ていないように感じるからです。友人の内科医が言うには、「そのような症状があるときは、他に重篤な症状がなければ、一応カゼと診断するんですよ。」
今から20年ほど前の出来事。インフルエンザにかかったようで、かかりつけの開業医を訪ねました。その日はたまたま、若い医院長が学会出席のために不在で、その父親の「大先生」と呼ばれている先生が診てくれました。「インフルエンザだな。白湯(さゆ)でも飲んで、暖かくして寝ていれば、自然に治る。」 「先生、いつものように抗生剤を出してください。」 「そんなの要らないよ! 抗生剤はインフルエンザ・ウイルスにはまったく効かないんだから。体を暖かくして寝ていれば治る。」と叱られてしまいました。
人が病気になるのは、それなりの原因があります。例えば、体を極度に冷やしてカゼをひいたとき、前者が原因で後者が結果です。うっかりコートを忘れて外出し体を極度に冷やしたのであれば、これも前者が原因で後者が結果になります。つまり、カゼの原因の原因はコートをうっかり忘れたまま外出したこととなります。
野菜の栽培もまったく同じです。病気が発生した場合、必ず原因があり、その原因にもまた原因があります。例えば、たくさんの収穫量を得ようと肥料をたくさん畑に入れたために、肥料過多で野菜が軟弱に育ち病気が発生した、という因果関係はよくあるパターンです。つまり、病気が発生した原因を何度かたぐっていくと、たくさんの収穫物を得ようとしたことにたどりつきます。
このような思考経路をたどるのが面倒なのか、ほとんどの農民は農薬が手放せなくなってしまいます。原因を掘り下げず、ただ当面の対処だけするのは農民に限りません。インフレに誘導しようと日銀がお札をじゃぶじゃぶ市中にばらまいているのも、まったく同じです。
(文責:鴇田 三芳)