第351話 農業衰退の原因(5)

百姓雑話

1970年代後半から、日本の農業は衰退の一途をたどってきた。なぜこうなってしまったのか、農業現場から私なりに考えてきたことを述べてみたい。

政治は難しい。1億人以上の国民をかかえ、複雑に絡み合った国際関係を読み解き、適切な国政を遂行するのは至難の業である。並みの人間にはできそうもない。

政治は残酷である。ある政策が特定の人々の利益にかなっても、他の人々を不幸にすることも珍しくない。今のコロナ禍にあっても、それが顕在化している。

そして、政治は人々の未来に大きく影響することがよくある。

今から過去の農業政策を検証すると、いくつかの政策が厳しい評価を受けざるを得ないだろう。その最たるものが敗戦直後の農地解放であったと私は思っている。現に今でも農地解放によって細分化された農地が日本農業の足枷(あしかせ)になっている。この政策は、長期的視点に立った農業振興策ではなく、搾取されてきた小作人の人権を確立し彼らが共産化するのを阻止することが目的であったのではないだろうか。日本の農業問題を掘り下げていくと、そのほとんどが農地の問題に行き着いてしまう。

あの農地解放を政治的に捉えると、アメリカが日本を管理下に置くための政策、アメリカに報復できないようにする政策の一つであったと私は思っている。戦後から今に至るまで、日本に対するアメリカの対日政策はこの点で一貫している。そのアメリカの対日戦略を冷徹に見抜き賢くかわす農業政策や食料政策を、どうして日本は実行できなかったのだろうか。

ここでまた、元アメリカ国務長官キッシンジャー氏の言を引用すると、「食をコントロールする者が人民を支配する」。まさに日本はアメリカの戦略どおりの道を歩んできた。今や食料自給率は40%を切っている。

最後に改めて指摘したい。結果論かもしれないが、搾取され続けてきた貧農の救済と人権の確立のための農地解放は必要なかったのではないだろうか。その後の歴史がそれを証明している。農地解放で農地を手に入れた農民の多くは、その後の経済成長という時流に乗って、農業を捨ててサラリーマンになっていったではないか。農地解放によって細分化された農地は次々と耕作放棄地となっている。

(文責:鴇田 三芳)