第291話 長い闘い

百姓雑話

連日連夜、とにかく暑い。今年もまた過酷な季節がめぐってきた。関東地方では梅雨らしい天気がほとんどないまま、今月はじめから真夏のような日々が続いている。そのため、野菜に病気が発生しない反面、アブラ虫にトコトン悩まされている。殺虫剤をていねいに1回かければ、アブラ虫は克服できるのだが、その1回をかけない大変さを研修生のT君も理解したようだ。農薬以外の手立てをあれこれ尽くしたが、いんげんとトマトはアブラ虫に負けそうである。他の野菜は一応どうにか対処できたものの、まだまだ気が抜けない。連中との長い闘いが続きそうだ。

とは言え、アブラ虫との闘いは序の口である。収入減を受け入れれば、それで済むことである。もっとも厳しい闘いは、もちろん暑さと超多忙である。毎年この頃になると、夏野菜の収穫がピークをむかえ、秋冬野菜の種まきも始まる。人参、ブロッコリー、キャベツ、レタス、白菜、春菊、大根、蕪、小松菜、ルッコラ、ほうれん草、玉ねぎ、にんにく、・・・・・・・・と、10月上旬まで種まきが目白押しである。

ブロッコリーなどは今月下旬から来月中旬にかけ数日ごとに15回ほどまく。11月から1月まで切れ目なく出荷するためである。ブロッコリーは、小松菜やほうれん草とは違い、「種をまいたら終わり。後は収穫だけ。」という訳にはいかない。1か月ほど育苗するのだが、この間毎日1~2回水をやり、その後畑に植える。そして、虫がつかないように防虫ネットを張る。植えてから1か月くらいたったら、防虫ネットを取り除き、台風と雑草対策のために土寄せと追肥をする。とても手間のかかる野菜なのである。

余談だが、空輸されてくるアメリカ産のブロッコリーが何であのように安く売られるのか不思議でならない。

これからの2か月は体力勝負である。体調管理をしっかりしないと夏を乗り越えられないどころか、厄介な病気にでもなったら、もともこもない。当然、日中の暑い時間帯は屋外での作業を避けるのが鉄則である。朝の内に収穫した野菜を荷造りしたり、昼寝をして体力の消耗を抑える。

農民の働き方はマラソンのようなものである。持久力と忍耐力が決め手である。

あるいは、農民はボクサーのような者でもある。この季節は特に、ことあるごとに私はサイモンとガーファンクルが歌う「ボクサー」を聴く。それで気合いを入れるのである。

(文責:鴇田 三芳)