第368話 日本の食料リスク(2)

百姓雑話
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第一生命が毎年、全国の小学生から高校生までの合計3000人を対象に「大人になったらなりたいもの」というアンケート調査を行なっています。それによると、2020年(第32回)と2021年(第33回)の2年連続で男子の第1位は「会社員」でした。

高校生の男子は22.2%が「会社員」と答え、第2位の「ITエンジニア・プログラマー」(11.5%)、第3位の「公務員」(10.5%)の2倍ほどになりました。第4位は6%以下に落ち込んでいます。高校生の女子でも「会社員」(20.0%)が第1位で、第2位が「教師・保育士」(9.8%)、第3位が「公務員」(9.4%)、第4位が「看護師」(7.4%)となっています。調査開始以来、ほとんどの年が「野球選手」か「サッカー選手」が第1位で、「会社員」という回答が第1位になったのは2020年が初めてでした。

この記事を読んだ時、1990年代のバブル崩壊による社会停滞を反映し、また未来像をも映し出しているような気がしました。たぶんこのアンケートが求めている回答は「野球選手」などのような職種であり、「会社員」や「公務員」という身分あるいは勤務形態ではないはずで、この点も非常に気になりました。

この回答結果から、いろいろなことが読み取れますが、私は次のように考えました。現代の若者は、①将来に対する強い願望や具体的な展望が希薄かもしれない。②自己責任が重くのしかかる自営業や自由業ではなく、他人に雇われることで人生のリスクを少しでも減らしたい。③できれば過酷な肉体労働は避けたい。

この点を踏まえて、日本農業の今後を推察すると、暗澹(あんたん)たる未来が見えてきます。

日本の農家の圧倒的多数は自営です。会社員のように最低賃金や月収が保証されているわけでもなく、雇用保険や労災保険にも加入できません。その一方で、自己責任とリスクが重く、3Kや5Kとも言われるほど労働がきつい。日本でまともに農業を営むということは会社員や公務員などとはほぼ真逆の道を歩まなければなりません。

そんな人生路を、一体どれほどの若者が選択するでしょうか。

実際、就農者は減少の一途で、近年は減少が早まっています。就農者の減少による日本の食料に及ぼすリスクが他のリスクに比べて大きいか小さいかは定量できませんが、確実に起こりえるリスクであることはもっとも明白です。

この担い手不足によるリスクは何十年も前から指摘されてきましたが、それでも改善されなかったことの意味は非常に重いと思います。

(文責:鴇田 三芳)