第161話 冬(1)

百姓雑話

冬は苦手である。寒さのために全身の活力が衰え、作業がつらくなる。たぶん、寿命も縮むだろう。さらに、1月からスギ花粉症が始まり、7月初旬までいろいろな花粉に反応してしまう私にとって、冬は忌まわしい季節でもある。いっそのこと、冬の間だけ暖かい国でのんびりバナナ栽培でもしたいと思うことがある。

農場は、田舎にあり周囲に家が少ないので、明け方の冷え込みは半端じゃない。厳寒の朝は、地表温度がマイナス10℃を切る。5、6km離れた都市部にある自宅とは冬の最低気温が数℃は違う。風がなく冷え込みの厳しい日は、朝から晴れていても、午前中は地面が凍っている。もちろん、写真のように、露地野菜も凍りつく。もし日中の日差しが弱いと、凍りついたまま夜をむかえ、人の体が凍傷で壊死するように、野菜も腐ってしまうことが普通に起きる。

また、野菜が凍りつく関係で、午前中は収穫できない。陽ざしを浴びて生気を取り戻す午後からである。よほど要領よく収穫しないと、日暮れまでに終わらない。時には、頭にライトを着けて収穫することもある。収穫物は夜間に凍りつかないように保温庫に入れておき、翌朝から荷造りする。

さらに、この季節は何かと作業がしにくい。凍っていた地表が溶けると、土がぐちゃぐちゃになり、足がとられる。収穫の際は、包丁か鎌を持っているので、滑らないように細心の注意をはらう。四輪駆動車でも畑の中の道ではスリップすることがある。まったく難儀する季節である。

しかし、露地栽培の場合、冬は必要不可欠である。少なくても3つの恩恵をもたらすからである。まず、寒さを乗り越えようと、野菜たちが栄養と甘みをたっぷり蓄える。根菜と葉菜は冬こそ旬である。2つ目は、害虫や雑草との闘いから開放されほっとできることである。そして3つ目の恩恵は、寒さで土が良くなることである。

関東平野で農業を営む場合、真冬から8月くらいまでしか十分な利益はでない。秋は台風の被害がたびたび発生し、それでいて北海道や東北地方から安い野菜が首都圏に流れ込み野菜の値段が値崩れするためである。したがって、冬の恩恵をしっかり受けとめ、夏に向けていかにスタート・ダッシュをきれるか、それが重要になる。

冬こそ勝負の時である。

(文責:鴇田 三芳)