第386話 個の生存と種の保存

百姓雑話
産卵中のカマキリ

農薬を使わない関係か、皆生農園の農地やその周辺には虫がたくさん生息しています。ハサミムシもその一つで、よく見かけます。成虫で体長が4cmくらい、その名の由来となっている鋏(はさみ)が最後部ついていて、誰が見てもわかるような大きなものです。このハサミムシの生態を知ったとき、私は胸が熱くなりました。春になると、卵から生まれた子どもたちに自分を食べさせて、その一生を終えるそうです。つまり、種(しゅ)の保存のために自己の生存にピリオドを打つのです。

産卵中のカマキリ

似たような例として、カマキリがあります。今までに私は二度目撃したことがあるのですが、オスは交尾の際にメスに食べられることがあります。やがて生まれてくる子どもたちのための栄養になるわけです。オスは、自己犠牲を意図して食べられるというよりも不本意ながら食べられるというのが事実らしいのですが、結果として種の保存のために命を捧げるのです。

また、ナナフシという昆虫は、体調が10cm前後になり動きが遅いためか、よく鳥に食べられてしまうそうです。もしメスの体内に卵があると、鳥に食べられた卵は消化されず糞とともに排泄され、ナナフシの生息地域が拡がります。メスのナナフシは、結果として、種の保存のためにその命を無駄にしないのです。

私は、二女三男の末っ子として、専業農家に生まれました。父母は、ほぼ平均寿命を全うしましたが、亡くなる一年ほど前まで働いていました。休むことなく一生懸命に働いた結果、長男には農地やビニールハウスなどの農業資産や家を、その他の子ども4名には現金を残してくれました。まさに、ハサミムシやナナフシのような一生でした。そんな親の背中を見て育った私も、体力と相談しながら、死ぬまで農作業を続けようと思っています。

そんな生き方は、自分の健康維持のためにも、残される家族のためにも、そして、ここまで生きてきたことで犠牲にした無数の生き物に報いるためにも、唯一の選択なのです。

 

(文責:鴇田 三芳)