第113話 対面販売から見えてくること

百姓雑話

かれこれ10年近く野菜を対面販売してきた。自分自身で販売すると、いろいろなことがわかる。とりわけ、お客様の希望や嗜好が生々しく伝わってくる。消費者心理として安く新鮮なものを買いたいという希望はもちろんのこと、できるだけ甘いもの、生で食べられるものを買いたいという嗜好も強い。また、有機栽培のものを売っている関係か、安全性の高いもの求めるお客様が主流になっている。ありがたいことに、「こんなに安く売らないで、もっと高くてもいいんじゃないの。これじゃ、利益がでないでしょう。」と言ってくださる方もおられる。

時には、お客様からこんな質問を受けることがある。「今日は、ほうれん草はないんですか?」と夏にきかれる。それも結構ご年配の女性だったりすると、正直嘆かわしい気持になる。また、真冬に「トマトはないんですか?」という問いはたびたび投げかけられる。本来、ほうれん草は冬野菜で、トマトは夏野菜なのである。旬でない時期に栽培されたものは、栄養が劣るだけでなく、農薬がたっぷりかけられている。スーパーなどで売られている寒い時期のキュウリやトマトは農薬を食べているようなものである。そんな現実を知らない消費者が多いことに気づかされる。

ところで、日本の農家が次々に辞めてきた理由の一つは、消費者の気持ちや食の傾向をあまり考えてこなかったことがある。一般的に、ほとんど料理をしない男性が営農全般をとり仕切っているため、料理をする女性の気持を栽培に反映しにくい。

そのような供給する側の欠陥を乗り越えようと、1990年代から全国に農産物の直売場が林立してきた。特に都市近郊では本当に多い。代表的なものは「道の駅」やスーパー内の「地元農産物コーナー」であろう。ほとんどの直売場では新鮮で比較的安くいろいろな農産物が買えるため、スーパー全盛期から比べれば消費者にとっては使い勝手が良くなった。

しかし、対面販売を長年にわたり続けてきた私の目からは、それでも物足りなさが残る。消費者の立場から見ると、まだ何かが欠落している。

例えば、安全性の問題である。直売場では「安心・安全な・・・・・・・・」という呪文のような慣用句がよく使われるが、実に曖昧な表現である。何をもって安心なのか、なぜ安全なのか、その根拠や理由を明確にしないまま、供給側の都合で安心とか安全とか強調される嫌いがある。私の知る限り、ほとんどの農家は市場に出荷するものと直売場で販売するものとを作り分けしていない。どちらも同じように栽培する。だから、直売場の農産物はスーパーで売っている物より安全だとは言い切れない。

また残念ながら、食の安全性に関心がある消費者の中にも、「地元産だから安心・安全よねー」などと供給側の口上を鵜呑みにしている人が非常に多い。政治家が鏡に映った国民の民意であるように、日本の農家や農産物も鏡に映った消費者の意識なのかもしれない。

そして、もう一つは情報不足である。野菜の栽培方法、旬、栄養、食べ方などを地元農産物の直売所や生協ですら満足に伝えてはいない。昔から八百屋さんが消費者に伝えてきた情報なのだが、・・・・・・・。人間関係が希薄になってしまった現代では仕方のないことなのだろうか。

(文責:鴇田  三芳)