人はなぜか失敗を何度も、何度も、何度も繰り返す。私も、還暦を過ぎ人生を振り返ると、失敗や過ちの連続であったことに気づかされる。そのほとんどを思い出せないほどである。それらに比べたら、成功体験など微々たるものである。
かつて第96話の「失敗を繰り返す」で失敗について述べたが、今回は別の視点からまた述べてみたい。
なぜ人は失敗するのか。ひとことで言えば、「能力以上のことをしようとチャレンジするから」とも言える。あらかじめ決められたルーティン・ワークをこなすだけなら、よほど気を抜かないかぎり、あるいは悪意を持って恣意的に行動しないかぎり、失敗は起きない。その典型的な例は列車の運転である。日本では、決められた運転ルールをあえて破らないかぎり、列車事故はまず起きない。
しかし人間は、持って生まれた気質からか、何事にもチャレンジしたがる。特に若者はそうしたがる。その旺盛なチャレンジ精神こそが、数々の文明を築き現代のような世界を実現してきた。しかしその一方で、絶え間ない失敗の歴史を刻んできたのも事実である。その失敗の一例が野心に満ちた老練な指導者に先導され戦争に突き進んだ歴史である。
ところで、どんな職業でも失敗を一定以下に抑えないかぎり、その職業で喰っていくことはできない。かと言って、競争社会に身を置くかぎり、失敗を恐れずチャレンジしなければ、遅かれ早かれ、やはりその職業では喰っていけなくなる。実に現実は悩ましい。
農業分野も同じである。日本では、政府も含めた農業関係者が、既得権益を守るために実質的にカルテルを結び、新たなことにチャレンジしてこなかった。時には、チャレンジしようとする者を叩いてきた。だから、日本の農業は衰退したのである。もう、そんな歴史に終止符を打ち、若いチャレンジャーをもっと快く迎え入れなければならない時代になった。
ところが、チャレンジは必ずミスを誘発し、些細なミスも度重なると大きな失敗を招きやすい。そのミスは少なくても6種類ある。それらは、計画ミス、判断ミス、能力不足ミス、うっかりミス、横着ミスである。これら5種類は、本人の内的要因によるもので、どんな職業に就こうが起こりえる。そして、6つ目は外的要因によるミスである。特に農民は自然現象に起因する外的要因ミスを犯しやすい。
これら6種類のミスの中で新規就農者が犯しやすいミスは、計画ミス、判断ミス、能力不足ミス、自然現象に起因する外的ミスである。いずれも経験不足からくるミスである。もちろん、他の分野で働き始めた新人もこれらのミスを犯しやすいが、会社などの集団の中で働く場合は、経験豊かな上司や先輩などが一緒に働くため、ミスを未然に防ぐことが容易である。
しかし、農業は基本的に自営のため、周囲の者のチェックやフォローがとても少ない。特に農家以外の者が新規に農業を始めると、これらのミスが頻発する。ちょっとしたミスが大きな失敗に結び付くことは少なくない。新規就農者の挫折の大きな原因になっていると私は思っている。
(文責:鴇田 三芳)