第7話 血-その1

百姓雑話

インフルエンザが流行しているという。自分も今、不覚にも何年かぶりにかかってしまった。体にこたえる作業は研修生にお願いし、楽な作業をしながら薬を飲まずに治すつもりだ。一体どうして、こんなにも流行してしまうのだろうか。

私は露地トマトの有機栽培に生きがいを感じている。夏の日差しのもとで完熟トマトを味わう幸福感は格別である。しかし、露地トマトの有機栽培は難しくて失敗しやすい。当然、利益はでない。他のいろいろな野菜でその赤字を埋めていると言っても過言ではない。

そのトマトは、日本の野菜のなかで売上高がトップだが、手間もトップクラスだ。生食用のトマトの生産には、とにかく手間がかかる。正確に言えば、手間をかける。たくさん採れるように、病気や害虫の被害を防ぐために、収穫作業がしやすいように、あるいは、より甘くするためにと。

その一つが誘引という作業である。トマトの茎を曲げたりひねったり、地面にはわせたり、ときには切ってしまったりと、とことん手を加える。私の目にはその作業が虐待と映ることもある。茎には動物の太い血管にあたる2種類の管がとおっているが、その管は歪められ、狭められる。当然、その中をとおる液体の動きが鈍る。私たちの血行が悪くなるのと同じ現象が起こり、トマトの健康が損なわれ、農薬が必要になると思われる。だから私はそのような無理をできるだけトマトに加えないように心がけている。

話を人間に戻そう。農作業は中腰や前かがみの姿勢をとらざるをえない場合があり、長時間に及ぶことも少なくない。冬場は冷たい作業も多い。特に露地栽培ではそれらの作業が宿命みたいなものだ。当然、血行が悪くなる。悪い血行は免疫力が落ち万病のもとになる。風邪もひきやすくなる。トマトの場合と同じである。

冒頭でふれたインフルエンザの流行は、血行を悪くする姿勢も原因している。もっと言えば、日々の生活や社会の有り様も原因しているような気がする。早寝早起きし、栄養をバランス良くとり、体をまんべんなく動かし、身も心も温かく保ち隅々まで温かい血が通うように気をつけ、風邪しらず医者いらずの生活をおくりたい。

(文責:鴇田  三芳)