第309話 失業と農業

百姓雑話

アマゾンが無人のコンビニに進出するという。日本のコンビニ業界も同様に無人化を進めようとしている。産業革命以来の機械化の流れを背景とした、IoTと安価なICタグのなせる技だろう。また、ドライバー不足で運賃を値上げした運送業界も、自動運転を急速に普及させ、ドライバー不足を補うに違いない。

日本では自動車業界が、世界に先駆け製造ラインにロボットをずらりと揃え、人による単純労働の機械化を大々的に進めてきた。かつて日本の花形産業であった電機・電子機器業界が近隣諸国にその地位を奪われても、自動車業界は基幹産業として今でも日本経済を支えている。

人間の労働が次々と機械に取って代わられても人間の仕事が存続してきたのは、新たな産業やビジネスが次々に創出されてきたからである。中でも、サービス産業や高度な知的労働を必要とする産業は、製造業などから余った労働力を積極的に吸収してきた。

しかし、IT革命が社会の隅々まで浸透し、この機械化の流れは、サービス産業にとどまらず、ついに知的労働者の労働をも浸食し始めた。一部の業種を除けば、世界的に労働者の削減が進み失業者が増えている。まさにトランプ政権の誕生はその結果であり、ヨーロッパの右傾化も失業問題が根底にある。今は人手不足になっている日本でも遠からず失業率が上がるだろう。その余った労働力をどの産業がいったい吸収したらいいのだろうか。

アメリカはイギリスから覇権を引き継いだGDP世界一を誇る超大国である。中国は経済の急成長によってアメリカの覇権に挑戦しようとしているが、それは叶わぬ夢であろう。なにしろアメリカは、優秀な人材が世界中から集まる多民族国家であり、石油資源が豊富で、なおかつ世界一の農業大国であるからだ。

そのアメリカには、「財産を築いたら広大な農場を持つのが夢だ」と多くの資産家が公言し実行してきたと、かつて聞いたことがある。アメリカ合衆国の建国の経緯がそうさせるのだろう。

ところが、ほとんど日本ではそんな話を聞いたことがない。数えるほどの企業がここ10年ほどの間に農業分野に進出したものの、残念ながら社会的な影響力に欠ける。

脱サラし四半世紀ほど農業と格闘してきた私の最後の望みは、「日本でも巨万の富を築いた企業や人々が、これからますます増える失業者の雇用もかねて、農業分野に進出してもらいたい」という一点である。私は、大海の一滴のような存在だが、残された自分の人生をこれに関連した事業に注力したい。

いつの時代でも、戦争の根本的な原因は貧富の格差である。開発途上国はもとより、豊かさの限界が見えてきた先進国でも貧富の格差が大きくなる一方であり、まるで戦争前夜のような様相を呈している。

政府や自治体の使命の一つは富の再分配であるが、結果として十分に機能していない。貧富の格差は広がるばかりである。輸出産業やIT関連の企業は空前の利益を上げているというが、その多くは、労働者の賃金を上げずに、もっぱら内部留保に走っている。

このままいけば、かつて聖徳太子が「日出ずる国」と自称した日本が「日没する国」となってしまうような気がしてならない。

(文責:鴇田 三芳)