第374話 農民の職業病

百姓雑話

私は、古希になった今でも、ほぼ休むこともなく毎日農作業をしています。農作業が好きなのです。ロシアの劇作家ゴーリキーが「どん底」という戯曲の中で「仕事が楽しみなら人生は極楽だ」と書きましたが、まさにそのとおりの日々を送っています。早寝早起きを励行し、適度に肉体と頭を使い、健康的な自給野菜をふんだんに食べています。煩わしい人間関係がほとんどなく、もちろん他人に使われることもありません。倒産や解雇などあろうはずがなく、自分の好きなように働けます。豊かな自然環境と四季の移ろいに癒され、おまけに収入も得られる。「こんな日々を極楽と言わずして、何を極楽と言うのか」と私は思っています。

しかし、週休2日と有給休暇が保証された会社員から見れば、たいして儲かりもしないでこんな働き方をするのは職業病と映るかもしれません。会社員の経験がある私ですから、そう見られるのも理解できます。

このような働き方以外にも、農民の私から見て、農民の職業病と思えることがいくつかあります。

まず指摘したいのは、労働対価に対する誤った考えが今でも根強く残っていることです。要するに、労働生産性をあまり意識していないということです。私の知る限り、ほとんどの農民は収入(総売上金額)とか反収(農地面積当たりの収入)を基準に経営状態を判断します。本来であれば、他の産業分野と同じように、時間当たりにどれだけの所得(収入から経費を引いた額)を得ているかが大事なのです。いわゆる「時給がいくらか」という指標です。農家の所得が少ない原因はこの点にもあります。

もう一つあげれば、それは関節痛です。とりわけ腰痛が職業病と言えるでしょう。とにかく腰痛持ちが多い。私もご多分に漏れず、関節痛に悩まされ続けました。50になった頃に患った変形性膝関節症から始まり、五十肩、右肘の痛み(いわゆる「テニス肘」)、右手の関節炎(腱鞘炎の一歩手前)、そして頸椎を原因とする脊柱管狭窄症と患い続け、今にいたっています。幸い、近所に整形外科の名医がおられ、その指導にもとづき日々のストレッチと筋トレを続けた結果、どうにか克服してきました。しかし、脊柱管狭窄症だけは克服できていません。たぶん、悪化させないように気をつけるしかないでしょう。

このように関節痛に悩まされ続けてきた私でも、治療を要するような腰痛にはなったことがありません。身長164cm体重45kgという貧弱な肉体にもかかわらず、です。腰痛だけは患わないように、多岐にわたる注意を払ってきました。

膝や股関節などのほとんどの関節は、いざとなれば人工関節に置き換えることができますが、首から腰にいたる背骨は人工関節に置き換えられません。コルセットやボルトなどで固定・修正するのがやっとです。「腰を痛めて満足に歩くことができなくなったら、人生は終わりだ」と胸に刻んできたのです。

私が腰痛にならないように実践してきたことは、ホームページの中の「有機農業の実践講座」に載せますので、関心のある方はぜひ参考にしてください。

                          (文責:鴇田 三芳)