この季節になると、野鳥の種類がめっきり減り、何か寂しくなる。よく目につくのはカラスくらいである。大小さまざまな鳥が冬を生き抜くために、南方へ渡ってしまったからである。はるか数千キロもの南方へ、その身ひとつで渡る小鳥がとても偉大に思える。
ところで、こんな大根を見たことがあるだろうか。普通は捨てられてしまうので、消費者の目にとまることは、まずない。大根は伸びる途中で有機物や石などの硬い物に突きあたると二股に分かれるが、写真の大根は違う理由で根が多くなった。それは、猛暑の8月に蒔かれたため、水を求めて必死に根を次々に生やしたのである。ごぼうも同じように何本もの根を生やし、半分くらいは売り物にならなかった。
本来、ほうれん草は冬が旬で、葉を厚くし地面に大きく拡げる。太陽の光をたっぷり受けエネルギーなどを蓄え、厳寒を生き抜くためである。だから、冬のほうれん草は甘く、栄養豊富になるのである。
トマトは非常に痩せた乾燥地でも育つ。その生命力は驚異的である。そんなトマトの苗を丈夫にするために少し萎れるまで水をあげないでおくと、葉の色が数時間で濃い緑色に一変する。たぶん、命の危機を感じて葉緑体を急増させたのだろう。この現象は、私たち人間でも起きるらしい。空腹が続くと命の危機を感じて、葉緑体と同じようにエネルギーを作り出しているミトコンドリアが増えるという。
第82話「DNAの叫び」で紹介したズッキーニは、肥料不足や苗を植え遅れると、雄花ばかり咲かせ子孫を早く残そうとする。ブロッコリーや菜の花、小松菜などの葉物野菜でも、同じように生育環境が悪くなると、花を早く咲かせる。いずれも命の危機を感じての反応であろう。
人間も、まったく同じである。難民キャンプでは、明日をも知れない境遇のため、子だくさんである。アメリカ社会でも、経済的に恵まれないヒスパニック系やアフリカ系の人口は増え続けている。中東でも同様である。厳しい境遇にあるパレスチナ人のほうがユダヤ人よりも人口増加が著しい。命の危機を感じた生物はその数を増やそうとする。これは、生き物すべてに共通する真理である。
日本はどうだろうか。少子化にともなう人口減少は止まりそうにもない。それは、戦後の平和な時期に物質的にも恵まれて育ったため、命の危機を感じ取る能力が衰え、生殖能力と生き抜く力が弱くなっているのではないだろうか。つまり、生物として根源的な危機に直面しているのではないだろうか。冒頭であげた大根を見ながら、私はそんなことを感じた。
(文責:鴇田 三芳)