第9話 信じる

百姓雑話

農薬をかけることを「防除」という。

「防」には、病気や害虫が発生していなくても定期的に農薬を使い、その発生を未然に防ぐ意味合いが込められている。また「除」には、病気や害虫が発生したら間髪いれずに農薬をかけ、被害の拡大を阻止するという意味で使われている。農産物の生産現場を的確に表す言葉である。

ところで、15日に発病したインフルエンザは、命をかけて病原体と戦っている免疫系を信じ、今までどおり医療機関には行かず市販薬も飲まず、数日のんびり過ごしてどうにか乗り切った。とはいえ、免疫力が落ちたのか、今回のインフルエンザが強力だったのか、それとも歳のせいなのか、かつて経験のないほど回復が遅かった。

話を野菜に戻そう。本来、植物は非常に生命力が強く、丈夫だ。何十冊もの専門書を読むまでもなく、自然の森や原野、足元の草たちを見れば、一目瞭然とわかる。栽培する野菜も、旬に合った栽培時期を守り、適切な生育環境にすると、たくましく育つ。病気に罹りにくく、罹っても時期が来れば自ずと回復することがほとんどだ。例えばトマトは、病気や害虫の被害を防ぐために一般には何十回も農薬をかけられるが、自然生えたものはなかなか病気が発生しない。

しかし現実には、生産現場での農薬使用は当然の作業になっている。多分それは、人間の「贅沢病」と同じ原因ではないだろうか。季節に逆らい、肥料を必要以上に施し温度を上げ、収穫物を早くたくさん得ようとするから、病気が発生しやすくなる。

トマトを農薬を使わずに栽培するには、旬にそって作付し、生産者自らの欲望をほどほどに抑え、野菜の生命力を信じることしかないように私は思っている。

(文責:鴇田  三芳)