第10話 土を喰う

百姓雑話
これはテストえです

「この土を喰わないと、死ぬぞ」と言われて、アナタは土を食べるだろうか? ほぼすべての人が「そんな非現実的な問いに何の意味があるのか?」と思われるだろう。

ところが、生活の場所が変われば、この問いが現実になる。かつてソマリアの難民キャンプで働いていた時、たびたび私も土を食べた。難民の家を訪ねた時に出された水は濁った河の水。貧しい配給食料で作られた心づくしの料理が出されれば、泥で汚れた手でも頂いた。「手洗いに水をくれ」とはとても言えない。井戸もない砂漠地帯では水はとても貴重なのだ。宿舎で日々食べる料理にもときどき砂がコショウのようにかかっていた。砂漠地帯に特有の砂塵が舞っていても、戸外で現地のメイドが作るからだ。泥や砂を毛嫌いするようでは、かの地で生きられなかった。

身近な自然界に目を転じれば、土を食べる生き物は普通に見かける。その代表ともいえるのがミミズである。土を食べ、植物の生育に都合の良い糞をする。土づくりの達人だ。そして写真のように、畑ではヒヨドリやスズメが土を食べている。肥料として米糠を畑にまいたからだ。春まで鳥たちの餌は極端に不足するため、泥まみれの米糠でも彼らにとっては命の綱である。

このような難民キャンプと農場での体験を持つ私には、現代人はあまりにもキレイ好きに見えて仕方がない。何でもかんでもキレイにしないと気が済まない。そんなにキレイにしないと人間は健康的に生きていけないのだろうか。そもそも、人間がいくら泥を嫌ったところで、その食料のルーツをたどれば、ほとんどが土から生まれたものではないか。

もちろん、キレイにすることを全否定するつもりはない。小鳥や昆虫でさえ、体をキレイに保とうとする。ただ私には、キレイにし過ぎる弊害も見えてしまう。偏った価値観により必要以上に体も環境もとことんキレイにすることは、労力や金銭の無駄づかいだけでなく、無意識のうちに他の生き物の生存を脅かしている、と思えてならない。

(文責:鴇田  三芳)