第13話 人を喰う(The Killing Fields)

百姓雑話

今から30年ほど前、1980年12月8日、John Lennonがニューヨークの自宅前で射殺されてしまった。そのニュースを聞いた時、5年勤めてきた会社を辞めると決めた。お世話になった直属の上司を裏切る結果を選んでしまい、本当に申し訳なく、今でも合わせる顔がない。

その5年後、映画「The Killing Fields 」が上映された。ラスト・シーンでJohn Lennonの名曲「Imagine」が流れ、涙が止まらなかった。

映画の舞台はカンボジア。隣国ベトナムの独立戦争が終わるころから、カンボジアでも内戦が激しくなった。アメリカに支援されてきたロン・ノル政権が、中国に後押しされたポル・ポト軍に倒された。原始共産主義を奉じるポル・ポト政権は、教師や医師などという高学歴の人々などを虐殺していった。その犠牲者は百万人を超えると伝えられている。その後、虐殺を恐れベトナムに避難していた人々が組織したヘン・サムリン軍が、ベトナムに支援され、ポル・ポト軍を西方に追放した。その時、大量の難民が隣国タイなどに逃れた。

「The Killing Fields 」は、ある一人のカンボジア人ジャーナリストの逃避行をとおして、ポル・ポト政権下の惨状を描いていた。何度見ても思うことは、「人の心には魔性が潜んでいて、周囲の人々の誘導や洗脳で、あるいは教育でいともたやすく人を殺せる」という人間の本姓の存在である。

また、こんなこともあったと何か本で読んだ記憶がある。確か犬養道子さんの「人間の大地」であった気がするが、逃避行中に負傷し逃げ切れないと覚悟した難民が、自分の腹を切り裂き、これを喰って生き延びろとわが子に与えたという。まさに「人を喰う」悲劇である。

そして私は、会社を辞めた1年後、タイに渡った。タイに逃げてきたカンボジア難民をボランティアとして支援するためだ。思い起こせば、この旅立ちが今の自分の出発点であった。

(文責:鴇田  三芳)