第14話 性格の壁

百姓雑話

いろいろな方々が農業研修を希望し訪ねてこられた。その人たちに何を学びたいのか尋ねると、栽培技術を学びたいという答えが圧倒的に多い。私も、今から20年以上前に研修を受ける時、そう思っていた。

確かに有機栽培の技術は、農薬や化学肥料を使う慣行栽培に比べれば難しいが、けっして至難の業ではない。広い世間には実践している方々がたくさんおられる。本もたくさん出版されている。私も就農する前から、相当読んだ。とにかく諦めず努力を積み重ねれば、遅かれ早かれ技術は身につく。昔の農業は有機農業しかなかったのだから。

私は研修生や就農希望者にこう言うことにしている。「ここで2年も研修すれば必要な技術を習得できます。しかし、それはほんの一歩です。あなたたち新規就農者は農家の跡取り息子とまったく条件が違います。その前途は壁の連続です。独立するには、農地と販路を確保し、資金を投じて機械や施設を揃えなければなりません。そして日々農作業に励んではじめて、どうにか販売にこぎつけられるのです。しかしその先に、少なくてももう一つ、大きな壁があるでしょう。農家が次々と減っていった理由の一つがその壁かもしれません。それは何かわかりますか?」と。

返ってくる声はまずない。まだ実践していないのだから、それも仕方のないことかもしれない。「その大きな壁はアナタの性格です。性格は、勉強や努力をいくら続けても、資金をつぎ込んでも、なかなか変わりません。本当に良い結果を得るには、技術や努力だけではなく、最後はアナタ自身の性格が重要です。性格を超える品質の野菜はけっしてできません。ですから、農業に足を踏み込む前に、じっくりご自身の性格を冷静に見極めた方がいいでしょう。熱い思いだけでは喰っていけません。」

私の苦闘の連続を話すまでもなく、この言葉が私自身の厳しい歴史を端的に語っている。そして折に触れ、自戒する言葉でもある。

(文責:鴇田 三芳)