真っ赤な彼岸花が咲いた。春先に出る蕗(ふき)のとうのように、土の中から花だけを伸ばしている。葉は、花を散らした後、秋も深まった頃に出てくる。そして、翌年の初夏には枯れてしまう。
ところで、植物が花を咲かせる条件はいくつかある。国民的な花となっている桜は、冬の寒さを十分に浴びると開花の準備を進める。そして、春の暖かさに促され、一気に開花する。同じパターンで開花する野菜には、空豆やえんどう豆がある。これらは、春に種を蒔いても、葉が茂るばかりで、花が咲かない。同じマメ科の野菜でも、インゲン豆や大豆(早どりすると枝豆になる)、小豆など、多くのものは寒さにあたらなくても花が咲き実をつける。同じ科の植物でも、同じパターンで花が咲く訳ではない。
キク科の植物も開花には2つのパターンがある。お墓参りに欠かせない菊は、短日植物で、夏至を過ぎて日が短くなると花が咲く。コスモスも同じである。しかし、食用の春菊は、その名のとおり、春暖かくなると花が咲く。やはり同じキク科の蕗やレタスも春菊と同じパターンをとる。
もちろん、気温の変化や日長に関係なく、ある程度成長すれば花を咲かせる植物もある。野菜で言えば、トマト、なす、ピーマンなどのナス科の野菜、きゅうりやオクラなどである。また、本来は早春が開花時期であるブロッコリーも、品種改良によって、今では一年中いつでも花を咲かせられる。
野菜の中には、花が咲くと困るものもある。上述のレタスや春菊はもちろん、夏の葉物野菜ではモロヘイヤと大葉がそうである。これらを露地栽培する時に気をつけることは、けっして早蒔きしないことである。梅雨のシーズンにちょっと涼しい気候にあうと、花が咲いてしまうからである。花が咲くと大葉は硬くなり食べにくく、モロヘイヤの種には毒がある。どちらも季節に逆らってはいけない。
話しを冒頭の彼岸花に戻そう。私は、彼岸花がどうやって季節を知るのか、未だにわからない。蕗(ふき)は、たぶん、地温を感じて花を出すのだろうが、彼岸花は、必ずしも地温に反応しているとは思えない。なぜなら、ほとんど地域に関係なく、また日当たりの良い場所と悪い場所に関係なく、ほぼ同じ時期に咲くからである。本当に不思議である。実家の墓地の周囲には絨毯を敷きつめたように彼岸花がたくさん自生していた。その名にふさわしい咲き方をするものである。
(文責:鴇田 三芳)