私が長年営んできた野菜の露地栽培は天候の影響をもろに受けます。漁業や道路工事業などと同じです。雨の時は外での作業が難しくなります。雪でも積もれば、その後の数日から1週間は外作業が滞ってしまいます。
とりわけ今春は、雨の日と雨量が多かったため、非常に作業が滞りました。東京では、4月の雨量が観測史上もっとも多かったそうです。春といえば当地では、雨が少なく畑が乾燥し、野菜に土ぼこりが溜まって困るものです。ところが今年は、例年と違い、台風が襲来した時のような強風と豪雨の日が何回もありました。きわめて異例です。たぶん温暖化のためでしょう。
とはいえ、物事は考えようです。今春の天気は、おそらく収入を減らすでしょうが、70歳を間近にした私に「ゆとり」というご褒美を与えてくれました。雨の日は家でのんびり読書しながら骨休め。この歳になってやっと、「晴耕雨読」が実現しました。
思い返すと、40歳で脱サラ就農し、がむしゃらに働いてきました。眠っている時を除けば、かたときも農作業のことが頭を離れませんでした。そんな日々が嫌でもなく、生きていることを実感できました。しかしその結果、膝を壊し1年以上もまともに歩けず、仕事どころではありませんでした。幸い名医と研修生に助けられ回復したものの、慢性化したまま今日にいたっています。
そんな体験から、反省と後悔の念を込めて、若い就農者にアドバイスしたいことがあります。それは、「作業にゆとりを持ちなさい」と。実力の8~9割くらいに抑えた予定を組みましょう。無理してやればできそうな作業量を常に想定していると、何かあった時に足元をすくわれます。体を壊すかもしれません。人によっては、過剰なストレスを受けます。もちろん、実力限界の働き方をすれば、少し余裕を持った働き方よりも収入は増えるでしょう。しかし、肝心の所得、つまり収入から経費を差し引いた額はそれほど増えません。体でも壊せば、かえって減ってしまいます。まさに、「労多くして、益少なし」です。さらに、時間当たりの所得、つまり時給(=労働生産性)は作業に少し余裕を持っている方が高くなります。
最後に、日本とドイツのゆとりの違いに触れておきましょう。ここ1世紀、両国は同じような歴史を歩んできました。GDPは今でも日本が上ですが、一人当たりのGDPではドイツのほうが勝っています。労働生産性ともなると、ドイツが日本の約1.5倍もあるのです。つまり、ドイツ人が8時間働いて得るお金を日本人は12時間も働かなければ得られない、ということです。労働生産性が高ければ、とうぜん、国家としてのゆとり(=余力)も生まれます。そのため、ここ7年間ドイツは赤字国債を発行していません。
今回のコロナ騒動でも違いがはっきり現れました。ドイツは、医療用マスクや防護服、フェイスシールドなどは緊急時に備えて輸出できるほど生産してきたそうです。人口当たりのICU(集中治療室)にいたっては何と日本の5倍ちかく。つまるところ、危機的状況では社会のゆとりの有無が国民の命に大きく影響してしまうのです。
(文責:鴇田 三芳)