第184話 枝豆あれこれ

百姓雑話

枝豆がおいしい。私は大好きである。なので、6月上旬から10月上旬までの5カ月間、切れ目なくずっと枝豆が収穫できるように栽培している。ブロッコリーとともに、毎日食べてもけっして飽きない。

ところで前話では、枝豆の良さの理由には触れなかったが、一言で言えば、「オール・マイティー」なのである。栄養豊富で、おいしい。くわえて、調理が簡単。三拍子揃っている。その栄養に関しても、カロリー、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミンやミネラルがどれも豊富に含まれている。さらに、ポリフェノールの一種である大豆イソフラボンは、女性ホルモンと似た働きがあり、更年期障害や骨粗しょう症を軽減するだけでなく、乳ガンや前立腺ガン、大腸ガンも防ぐという。

枝豆は、すでに江戸時代から庶民の舌を満足させていた。ここ数十年の間に普及したブロッコリーよりもはるかに歴史の古い食材で、現代ではビールに枝豆は欠かせない。枝豆として若採りしないで熟させれば大豆になり、しょう油や味噌、豆腐や納豆などの材料となる。だから、個人的には、野菜の王様にしたいくらいである。

枝豆のおいしさには二種類ある。実がパンパンになる前の、莢(さや)の緑色が濃い時期は脂質やアミノ酸によるおいしさで、実が充実し莢の色が少し黄色くなりかけた時期は糖質のおいしさである。前者は、刺身や牛肉などの脂身によるおいしさに近く、後者は砂糖のようなおいしさである。さらに実が充実し莢が黄色くなると、でんぷんとたんぱく質の含有量が増え大豆のような味になり、おいしくなくなる。

おいしく枝豆を食べるには、上述のように食材がおいしいことはもちろん、ゆで方、塩味の加減、ゆでた後の食べるタイミングなどにも配慮しなければならない。なかでも、ゆで方が大事で、ゆで過ぎると味が落ちてしまう。私は、沸騰したお湯に枝豆を入れ、5、6分そのまま沸騰させ、さっと湯上げし、塩をまぶす。一般的には、熱々のうちに食べるのがおいしいと思われているが、冷蔵庫で一晩冷やしたものも、翌日のカレーがおいしいように、これまたおいしい。塩味がなじむからである。

スーパーなどで枝豆を購入する際、ほとんどの消費者は莢(さや)の色が鮮やかな緑色のものを選ぶ。この常識はほぼ正しいが、正確ではない。莢の色だけでおいしさが決まるわけではなく、品種によっては莢の色が少し黄色みがかったほうがおいしいものもある。

収穫の季節にも左右される。梅雨時と晩秋がもっともおいしい。真夏は、一番食べたい季節だが、強い日差しと高温のために実入りが早く、味が十分のる前に収穫時期が来てしまう。一般に、実のなるものは、昼夜の温度差が大きい時期の方が栄養豊富でおいしい実が採れる。魚沼産コシヒカリがおいしい理由もここにある。

枝豆の栽培は「カメ虫」などの厄介な害虫との戦いである。一般的には、強力な農薬を何度もかける。毒性の低い農薬だと、カメ虫がなかなか死なないからである。しかし、農薬を使わなくても、防虫ネットを適切に使えば害虫の被害はでない。

最後に気がかりな点を一つ。枝豆用として収穫せずに熟させたものが大豆だが、その94%ほどが輸入であり、国産はごくわずかしかない。味噌も醤油も、豆腐も納豆も、そしてサラダ油なども外国の大地に依存している。

(文責:鴇田 三芳)