第19話 アブラ虫とグレート・ジャーニー(1)

百姓雑話

ゴールデン・ウィークは非常に忙しい。田植えのシーズンだからだ。皆生農園は、稲作を委託しているので田植えはないが、春野菜の収穫と夏野菜の植え付けに早朝から夜中まで働く。育苗ハウスは約20種類の苗で埋まっている。遅霜の心配がなくなる5月初めから20日頃までに、一気に植えなければならない。

この時期の育苗で悩まされるのはアブラ虫だ。育苗には害虫対策を徹底しているつもりでも、苗にアブラ虫がつく。今年は写真ようにピーマンが被害を受けた。発見が少し遅れたため、虫取りが厄介だった。2回ほど虫取りしても完璧ではなく、畑に植えた後、テントウ虫の成虫や幼虫を捕まえてきてアブラ虫を食べ尽くしてもらうしかない。毎年テントウ虫には助けられる。

ところで当農園にとっては、このアブラ虫が害虫御三家の一つである。ちなみに、残りのものはヨトウ虫類とネコブセン虫である。アブラ虫の繁殖力は凄まじい。ネズミ算をはるかに凌ぐアブラ虫算的に増える。アブラ虫は、昆虫でありながら、平時は羽がない。また、ほとんどの場合、卵を産まず子どもを産む。その子があっという間に成虫になり、交尾もしないで子どもを産む。私の想像だが、母親は溜めておいた精子を子どもの体内に分け与えるのかもしれない。学校では、昆虫は交尾し産卵すると教わる。卵は幼虫になり、蛹になってから成虫になると。しかし、実際の生き物はそんなに単純ではない。生き残る術を巧みに駆使している。

そんなアブラ虫でも、ある状況になると昆虫らしく立派な羽が生え、四方八方へ飛散する。それはまさに、アフリカのサバンナ地帯で生まれた人類が南アメリカの南端まで達した旅、グレート・ジャーニーのようだ。そして、雌は新たな地で好みの野菜を探すと子どもを産む。後はアブラ虫算的に増え、またたく間に新たなアブラ虫帝国を築き上げる。人間の歴史と同じだ。

(文責:鴇田  三芳)