今年の露地トマトは季節外れの台風による厳しい試練をうけた。その直後、傷ついたところを一気に病気が広がっていった。そして、どうにか収穫できそうになったトマトを三度目の試練が襲った。カラスの大群が収穫直前の完熟トマトをすべて食べつくしてしまったのだ。露地トマトを20年ほど作ってきたが、6月の台風とカラスの被害は2度目である。恥ずかしながら、どちらも想定していなかった。トマトとお客さまに申し訳ない気持ちでいっぱいである。
やっとのこと、病気に感染したところを取り除き、傾いた枝を整理した。これで多分、去年のように10月まで収穫できるだろう。いや、そうしたい。私は、栽培するのも食べるのも、トマトが大好きである。特に酸味と甘みのバランスが良い露地トマトの味は絶品である。普通に市販されているハウス・トマトはただ甘いだけだが、自然の恵みをたっぷりうけ完熟した露地トマトはまったく違う味がする。これを収穫中に食べると、それまでの苦労が報われる気がする。もし栽培品目をひとつにしぼれと言われれば、私は迷わず露地トマトを選ぶ。
ところで、「露地トマトの有機栽培はきわめて難しく、ハウス栽培の比ではない」と世間では言われている。実際のところ、2010年までは私にとっても露地トマトの有機栽培が一番難しかった。そのため、印西市で経営してきた三自楽農園の時代は、難しくて赤字になるので、栽培しない年もあった。とにかく病気との闘いであった。殺菌剤を何回か散布すればすむのだが、その何回かをやめるのが非常に難しい。ちなみに、千葉県の調査によると、普通に売られているハウス栽培のトマトは何十回も農薬がかけられているという。
ところが、種が大地にこぼれ自然に生えたトマトは病気に強い。とにかく強靭である。雨や過湿にも負けない。この差はどうして生まれるのか、ずっと考えてきた。人に言われること、本に書いてあることなど、本当にいろいろのことを試してきたが、有機栽培では満足のいく結果が得られなかった。
ある時、自然に生えたトマトがたくましく茂っている姿を見ながら、ふっと気づいた。「トマトに問題があるのではなく、人間の側に問題があるのだ。トマトの気持ちを知れば、きっと問題は解決する」と。そして、そのとおりであった。トマトが育ちたいようにすれば、それだけで良かった。昨年は、農薬を使わなくても、7月初めから11月上旬まで割と簡単に収穫し続けられた。露地トマトに発生する病気と20年来格闘してきたことが嘘のようであった。そして今年は、露地栽培のミニトマトの長期どりに挑戦中である。今までのところ、きわめて順調である。
「相手の気持ちを察する」ことは、人間に対してだけではなく、植物にも言えることだと実感した。
(文責:鴇田 三芳)