年間でもっとも殺虫剤がまかれる季節が来た。
私どもの畑では、農薬を散布しないので、周辺の農地から避難してきた害虫がうようよいる。今夏は、雨不足のために、ヨトウムシの発生は遅れているが、カメムシは逆に群れをなしている。とにかくカメムシは、ヨトウムシと同様に、非常に厄介な害虫である。夏野菜の実にセミのように針を刺し、中の果汁を吸う。右の写真のように、たわわに実ったミニトマトだが、カメムシが食害したために、売り物にならない。今年は、残念ながら、8月末をもって収穫終了である。ミニトマトの好きな方が見たら、きっと「もったいないなー」という印象を持たれるだろう。
ところで、一口に殺虫剤と言っても、いろいろある。毒性の弱い物と強い物、毒性の薄れる期間が短い物と長い物、作物の中に浸透しにくい物と浸透する物、生物的に害虫を殺す物と化学的に殺す物、水に溶かして害虫や作物に直接かける物と土に農薬をそのまま混ぜ作物の根から吸収させて作物を食べた害虫が死ぬようにした物、などなど実にたくさんある。
日本では農薬を使う農家が圧倒的多数で、そのような農家が日本の食料を支えているのが現状である。だから私は、農薬を普通に使う農家でも、主に農業で生計を立てている農家に敬意を払い、多くの方々に教えを乞うてきた。
その一方、長く直売してきた関係で、たくさんの消費者とも接してきた。その中には、残念ながら、農薬を使う農家を軽蔑する方々もおられた。話をお聞きしていたら、悲しさや虚しさ、あるいは怒りなど、複雑な思いが襲った。たぶん、おおかたの農家がその発言を聞けば、「それなら、アンタが農薬を使わない農業で喰ってみろ」と思うであろう。農薬を使わない農業の過酷さは、体験した者でないと到底理解できない。
されど、である。農薬使用をもっと減らせるよう農家の側も努力して欲しいという思いが強い。どんな分野の労働者も、もっと良い製品を、もっと良いサービスをと、日夜知恵を絞っている。努力している。思い起こせば、日本に農薬が普及し始めた頃、日本の農業が衰退し始めたことがわかる。少々短絡的かもしれないが、日本の農業が衰退してきた原因の一つが、この「農薬依存」であるような気がする。
ひるがえって、私たちの日常生活はどうであろうか。ちょっとした体調不良で病院に行っていないだろうか。行くと医師は、無難にと検査づけ、薬づけにする。経営上も都合が良い。あるいは、病院に行かない場合でも、市販薬を安易に飲んでいないだろうか。何しろ今や、コンビニでも医薬品が売られている時代である。
つまり「薬依存」は、農業だけの問題ではなく、広く社会の問題でもある。皮肉にも、人類の病理かも知れない。
(文責:鴇田 三芳)