耕作放棄地が増え続け、埼玉県ほどの面積になっている。農林水産省の報告書には、「耕作放棄地はこの20年間増加しています。耕作放棄地面積は、昭和60年までは、およそ13万haで横ばいでしたが、平成2年以降増加に転じ、平成22年には39.6万ha(概数値)となっています。耕作放棄地の所有を農家の分類別にみてみますと、主業農家及び準主業農家の耕作放棄地面積は、平成2年以降横ばいで、平成12年から17年にかけてはむしろ減少しています。一方、土地持ち非農家や自給的農家の耕作放棄地は増加傾向にあります。平成22年には耕作放棄地面積39.6万haのうち27.2万ha(7割弱)がこれらの農家によって占められています。」とある。つまり、日本中が土地バブル、資産バブルに沸き立っていた頃から、農業をやっていない農家の農地が荒れ始めてきたということである。なかには、宅地用に農地を高く売ろうとしたが売れず、耕作を放棄してしまった農地も少なからずあったであろう。
ところで、農地に関して「農地法」という法律がある。戦前の農地制度の問題を解決するため、連合国総司令部(GHQ)の指揮下で断行された農地解放を受けて、昭和27年7月に制定された。この農地法の根幹は、「実際に耕作する者が農地を所有する」という耕作者主義である。逆に言えば、「農場で実際に働いていない者は農地を所有できない」ということである。いわんや、「株式会社を設立し、株を発行し資金を集め、農場を買って従業員に営農させる」ことなど、ご法度である。一般の企業社会で普通に行なわれている方法が、農業分野ではまったく通用しない。上述の耕作者主義のためである。
この農地法が施行された当時、私は生まれていなかったので正確にはわからないが、それなりの意味と必要性があったのであろう。例えば、大地主に小作人が酷使され、あるいは搾取されるということは、法の下の平等から逸脱する行為なのであろう。また、現場で汗水流して働く農民一人ひとりが農地を所有できれば、農民の労働意欲が高まり、戦後の食料増産に大いに寄与すると考えられたのであろう。あるいは、有権者の支持を獲得しようとする政治家の思惑も絡んでいたのかもしれない。
また、こんな想像もできる。「農地解放によって大地主を解体し、各農家の耕作する面積が格段に小さくなれば、労働効率が落ち、大規模経営のアメリカ農業に太刀打ちできなくなる」というアメリカの戦略的意図はなかったのだろうか。
いずれにせよ、多額の税金をいくら費やしてきても耕作放棄地が増え続けている実態は、農地法を中心とした制度や組織、あるいは公的施策が期待ほどには機能してこなかったことを物語っているのではないだろうか。
(文責:鴇田 三芳)