第52話 時代は確実に変わりつつある

百姓雑話

去年の1月から研修してきた青年、望月一彦さんが10月から独立した。皆生農園で今年起きたもっとも喜ばしいことである。前職がガラス職人であったためか、とても器用で、農業施設や水道の工事なども十分こなした。ただ、農作業ともなると、経験がほとんどなかったため、研修1年目は私から日常的に厳しい指摘や注意を受けていた。時として私の注意は言葉づかいにまで及んだ。たぶん内心、「そんなことまで注意しなくてもいいじゃないか」と彼はたびたび思ったであろう。しかし、黙々と努力した。

そして、関係する公的機関の支援もあったが、やはり彼の努力と人柄が好機を引き寄せた。かなり条件の良い農地と施設を非常に安く借りることができたのだ。その一人の地主は、偶然にも、私も以前お世話になった公務員の方であった。本当に世間は狭い。

非農家出身の新規就農者はなかなか条件の良い農地や施設を入手できないが、彼はその高いハードルを見事にクリヤーした。奥様も一緒に働き、お子さんたちも学業のかたわら、ときどき手伝っているようだ。彼らの努力を見つめつつ、遠からず軌道に乗ることを心から祈っている。後は体を壊さないように気をつけ、頑張るのみである。

思うに、私が就農した20年前とはだいぶ時代が様変わりした。確実に変わりつつあるようだ。かつて私は、船橋市の農家で研修し終え、農家になるための条件などを教えてもらおうと市役所を訪ねた。しかし、担当者は対応に困り、「最近、異動してきたものですから・・・・・・。前任者を呼んできます」と退席してしまった。驚いた。他の部署から連れて来られた前任者は、「アナタのようなケースは当市では初めてで、どう支援したら良いかはっきり分かりません」と要領を得なかった。呆れた。あれから20年ほどたったが、あの体験は今でも鮮明に憶えている。

それが今や、公的な支援制度も増え、非農家出身の新規就農者に対しても県や市の担当者が実によく支援してくれる。農業委員や市議会議員も貴重な時間を割いて尽力してくれる。以前と比べれば、意欲と能力を備えた人には道が大きく開き始めた。長い時間がかかったが、時代は確実に変わりつつある。

(文責:鴇田  三芳)