第271話 激変への適応

百姓雑話

ピーマンの種が芽を出し始めた。写真のように、すでに子葉を開いたものもあれば、まだ芽を出していないものもある。ピーマンは夏野菜のため、低温で発芽させると、このように発芽が揃わない。種に含まれている栄養量が違うのか、種の代謝速度が異なるためなのか、パラパラとゆっくり発芽する。このように、生育環境が厳しいと、それぞれの種の生命力の差が出る。それでも、ほぼすべての種がいずれは芽を出す。

逆に、発芽温度を高く設定すれば、一斉に発芽する。種を蒔いた者にとっては、このほうが都合良さそうに思える。もちろん、気分も良い。そして、発芽後も温度を高めにすれば、スクスク育つ。育苗業者は、限られたスペースと期間の中でより多くの苗を生産し販売するために、発芽から出荷まですべての期間を高温管理する。このように、生育環境に恵まれた種や苗は、各個体の生命力の差が出にくい。

人間と同じである。

ところが、ここに大きな問題が潜んでいる。生育環境に恵まれスクスク育った苗は、急激な環境変化に適応できず、病気になりやすい。だから、育苗業者は頻繁に農薬をかける。農薬に助けられた苗は、自己免疫力が落ち、病気になりやすい体質になる。こうなると、もはや負のスパイラルに落ちていく。病気になるから農薬をかけるのか、農薬をかけるから病気なるのか、何が何だか分からなくなる。

ところで私事だが、「俺はいい時代に生まれたなー。実にラッキーな人生だったなー」と私はつくづく思う。日本はもちろん、世界中が経済発展していたため、就職に困らなかった。私だけではなく、そういう世の中だった。時代は左右に揺れ上下に浮き沈みするものだが、団塊の世代から今定年退職しつつある世代までは、戦争体験もなく就職にも困らず、運良く上げ潮の時代に生きられた。幸運に感謝である。

ところが、上記のピーマンなどの苗から類推すると、私と同じように平和の時代に生まれ、良い社会環境でヌクヌクと生きてこられたこの世代は、もしかすると世の中の激変についていけないのかもしれない。心配だ。

(文責:鴇田 三芳)