第324話 食の激変

百姓雑話

今年は、6月中に梅雨が明け、台風が本州南岸を東から西へと逆走した。梅雨明け後から記録的な猛暑が続き、野菜の収穫量が減り価格が値上がりした。秋から冬にかけて不作による値上がりはよくあるが、夏にこんなことが起こるのは極めて珍しい。また当地では、例年より10日以上も早く、8月末には稲刈りがほとんど終わってしまった。まったく今年の夏は異例づくしである。日本に限らず、世界各地を猛暑が襲ったことから、もはや地球規模の温暖化を疑う余地はなさそうだ。

ところで、第二次世界大戦が終結した頃から人類の食が激変している。その渦中にあるため日々の生活の中で実感しにくいが、確実に進行している。

その一つが飽食と食余りである。第二次世界大戦後のアメリカで始まった飽食現象があっと言う間に世界中に拡散していった。その結果、飽食と不健康な生活習慣がもたらす病気が増え続け、糖尿病などの、いわゆる「贅沢病」がごく普通になった。国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の糖尿病人口は爆発的に増え続けており、2015年時点で糖尿病の有病者数は4億人を超えたという。日本でも戦後、経済発展と洋食化にともない急増し、有病者と予備群の合計が約2000万人と推計されている。(厚生労働省が平成28年に行なった「国民健康・栄養調査」による) かつて、「3高」と言えば、「高身長」「高学歴」「高収入」の青年男子をさしたが、今や「高血圧」「高血糖」「高コレステロール」が3高と言われている。

それだけならまだしも、食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食料が膨大な量にのぼっている。日本人の主食と言われている米の生産量の何倍もの食料が日本では捨てられている。食余りも極まれり、である。

太古の時代から、こんな飽食と食余りの時代があっただろうか。ほんの一握りの特権階級の人々を除けば、人類は常に飢餓との戦いであった。ほとんどの戦争の根底には飢餓があったに違いない。天下泰平と言われた江戸時代でも、何度も飢饉が民衆を襲い、武家政権は農民一揆を恐れていた。

二つ目の激変は、生産者と消費者という二極化である。その両極は年々拡がるばかりである。もはや日本では、両極の距離を縮めるのは不可能な状態である。ほとんどの人にとって、食料は生産するものではなくお金で買うものに変わり、生産現場への関心や認識は希薄になりつつある。

三つ目は食品の内容の激変である。その象徴と言うべきものが肉食化と工業的な加工食品化である。スーパーに行けば、加工食品が生鮮食料品(野菜や果物、魚介類など)を圧倒している。そして、その加工食品は添加物まみれである。

黄金色に輝く稲穂が今年も刈り取られていく。その米の生産量が1960年代後半をピークに減り続けている。日本の原風景はいつまで続いていくのだろうか。

(文責:鴇田 三芳)