第53話 厳しい試練の先に

百姓雑話

あっという間の1年であった。還暦にもなった。年を重ねるごとに、月日の流れが本当に速く感じられる。働き過ぎると、節々が痛み、数日は疲れが残る。年には逆らえない。幸い、辛い作業の多くを研修生やボランティアの皆さんが担ってくれるので、今年も何とか無事、年を越せそうである。本当に感謝である。

農作業を休み農園の一年を振り返れば、今年も厳しい試練の連続であった気がする。春から初夏にかけてアブラ虫に悩まされ、どうにか克服した矢先の6月、台風が襲来した。こんな早い時期に台風の直撃を受けるとは予想もしていなかった。9月になっても、またアブラ虫と台風の被害が出てしまった。殺虫剤を1回かければアブラムシなど完璧に駆除できるのだが、その1回さえも使わない栽培方法の辛いところである。

今さら言うまでもなく、農業は過酷な職業である。労働環境が本当に良くない。ほぼ1年中働いても、なかなか黒字が出ない。すべての責任を我が身に負わなければならない。自然災害と豊作貧乏はたびたびあるが、ほとんど保険がきかない。最低賃金の保障などありはしない。賃金闘争する相手すらいない。労災保険も実質的には機能していない。基本的に農民は労働基準法の対象になっていない。人々の命を日々支えている重要な職業にもかかわらず、医療現場のような国家の保護をほとんど受けていない。法的規制や経済的な理由などにより、自由な発想や革新的な試みをなかなか具現化できない。こんな職場だから、後継者がなかなか育たない。まさに、「ないない」尽しの業界である。

にもかかわらず、皆生農園には現在、そのような業界に未来を託す研修生とボランティアが3名いる。1人は今年4月から通い始めた青年で、片道30分ほどの道のりを自転車で通って来る。彼は療育手帳を持っている。2人目は今夏から来ている脱サラ青年。住宅ローンを抱えているので、収入を得るのに必死である。そして、かれこれ5年ほど週末に手伝ってくれているサラリーマン。彼は、企業でばりばり働きながら、その一方で社会的弱者を長年支援してきた心優しい人である。

それぞれが、農業分野で働くにはかなりに困難を抱えていると私は感じている。農薬を使わない栽培なので、なおさらである。しかし、どの研修生も非常に真面目で、私の厳しい指摘や注意もしっかり受け止め、黙々と作業に励み農園を支えている。彼らが諦めない限り、私も可能な限り力になるつもりである。

霜が降り朝日にキラキラ輝く畑に目をやると、冬の最中というのにブロッコリーがゆっくりと蕾をのばしている。厳寒に耐え、きっと春にはたくさんの花を咲かせるだろう。そのブロッコリーように、研修生とボランティアの、そして農園の厳しい試練の先に、希望の花が咲くことを切に願いつつ、新年を迎えたい。よし、

来年も頑張ろう。

(文責:鴇田 三芳)